坂部恵、合田正人
お出かけしたり買い物したりしていた。
疲れた。しかし意外と体の動きはよい。昨日今日、読み終えた本をメモとして挙げておきたい。
- 作者: 坂部恵
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2008/02/06
- メディア: 文庫
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- 作者: 合田正人
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2011/05/18
- メディア: 新書
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どちらも詩的なものを感じさせるが問題意識はビビッドである。
おそらく坂部氏は、人が言葉を話し、必ず何かを語る際に参照される記憶と前景化する言葉の動きの関係を「今」と「昔」という昔話の語り方からはじまり、リクールやヤコブソン、ヴァインリヒらに言及しながら迫っていく。(その際折口信夫が実証主義的な歴史学を批判して、身毒丸などの小説を書いて歴史的文学的探究を行おうとしたのではないかと語られる。これはニーチェと似た動きであろう。また坂部氏は慎重な留保をつけながらも、科学と言語芸術の相似性まで語ろうとする。)
その人が存在する限り、生きる限りとらざるをえない記号の働きやその「差異化」それは深く死や不在、彼方(他界)に支えられている。そういう事実に気が付くとき、つまり生きていることの背面を知る働きが「治癒」の働きにも似ているし、またそういう優しさは死の酷薄さそのものから栄養を得ているというように。
もう一冊。合田氏は吉本と柄谷の二者を軸に深い理解と肯定を示している。読みも吉本を柄谷が深く影響されたであろうカントやニーチェなどと接続する部分があり非常にユニークな、合田氏のような博覧の哲学者ならではの面白さがある。
合田氏は吉本隆明には「自立」が強調されなるほど「個体」の考え方は強くあるが、「個体化」のプロセスを十分に解明していないのではないかという。しかし合田氏は吉本氏の主著を追いながら、吉本が遠山啓に学んでいたことに迫る。吉本氏が遠山啓仕込みの現代数学的な(カントールの集合論など。つまり構造主義とも通底する)ユニークな言語理解、心的な働きの理解を持っている点を高く評価する。つまり吉本氏は強面のように見えながら、記号の織物の性質をよく知った繊細な思想家だという面を強調する。
柄谷について、柄谷の吉本理解者としての深さ、そして独特な実存的な強度(合田氏は柄谷は「愛」という表現を使える人だと評す)、また哲学認識の高さを語る。しかし柄谷は吉本のドメスティックな思想(井戸の外に幻想を持たない蛙)に対抗するきらいもあって、「内部と外部」(日本と他国)をきっぱりと分けて外に触れないといけないというメッセージを発する。また共同性にも敵意むき出しである。しかし合田氏は、本当にクリティカルなのは、内と外という境界が生まれ出てくる複雑な差異化の場所ではないかという。しかしある時から、柄谷自身差異化という発想から距離をとっていくと。
確かに人間の体と心についてもそうだし、境界はすでにあるのではなくその都度引き直され、新たに規定されその規定が壊されていくような場所なのである。国境しかり、物質と物質の間の関係然り。この意味で常なるものはない。
つまり合田氏は柄谷については「内部と外部」吉本については「個体」というものが彼らの思考の力であり「限界」であるといいたいのであろう。合田氏はそこで考えをせき止めてふんばるのではなく、個体が個体として成立しているのはどのようにか、またあなたと私とのちがいは何か、同じさは何か、それらを日々思考し、とらえんとする動きに合田氏は向かおうとしているのであろう。
柄谷氏が本当は知っているように、共同性を解体するために共同性、同一性の働きをうまくとらえないといけない。これは合田氏がレヴィナスから得た示唆だろうと思う。なぜならレヴィナスは出口なしの「存在=ある」の禍悪を奇貨としてそこを深めながら脱出する道をとったからだ。
合田氏が以前文藝別冊のニーチェで、レヴィナスとニーチェの意外な関係を語っていたが(そして今回はカントとスピノザに可能性を見ている気がするが)すこしその意味がわかったような気がした。
ニーチェといえば孤高という印象があるが「星の友情」という友情の哲学者でもある。無限の遠さが人との間にある。友情はその距離、違いを肯定する連帯である。ここにはレヴィナスの考えとの共通性もあるだろう。合田氏はこの本で、家族や愛に回収されない友情や他者の生まれる場所を目指しているのかもしれない。境涯のちがいをおさえて、おさえながらそこを時折超えていくこと。それは「存在の禍悪」に揺さぶられながら、つながりと(運命的な)断絶を感じる場所である。といえば現在の災害や事故と重ねすぎであろうか。
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2010/06/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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