細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

安倍政権による参院選後の緊急事態条項からの憲法改正を戒める地方紙・全国紙続々

 

朝日新聞 

連載:天声人語

天声人語)緊急事態の議論の危うさ

2015年11月14日05時00分

 

 

ミイラ取りがミイラになる、という言い回しを辞書で引く。人を連れ戻しに行った者が、そのまま戻ってこなくなる、とある。憲法に「緊急事態条項」を加えようという議論を聞く度、この言葉が浮かぶ▼国家存亡の危機には迅速な対処が必要だ。そのため首相に権力を集中させる。国民の権利を制限し、命令に従わせる。憲法秩序ログイン前の続きの核である三権分立と人権保障の、いわば一時停止である。危機が去れば元に戻すのが当然の流れとされる▼ところが元に戻らない場合がある。全権を握った指導者は往々、いつまでもそれを手放さない。ドイツヒトラー独裁が典型だ。秩序を守るための対処だったはずの一時停止が、永続化して、ついにはその秩序を破壊してしまう。パラドックスである▼安倍首相が先日の国会審議で、緊急事態条項の必要性を語った。これが改憲の突破口と見る向きは与党にも多い。大方の理解を得られやすいと踏んでいるらしい。しかし、ミイラにならないための歯止めをどれだけ考えているのか▼自民党改憲草案は、武力攻撃や地震などの自然災害に加え、「内乱等による社会秩序の混乱」を緊急事態に含める。「等」が拡大解釈の余地を広げる。デモすら混乱と認定されないか。危険な書きぶりだ▼危機対処の責任を裁判所が後から追及する仕組みにも言及がない。権力を縛るはずの憲法を、逆に縛りから権力を解放する方向に書き改める。自民草案の根っこにある性格が、緊急事態の議論にも見えている。

(天声人語)緊急事態の議論の危うさ:朝日新聞デジタル

 

毎日新聞

首相の憲法発言 数合わせよりも中身だ

衆院で与党の自民、公明両党はすでに3分の2超の議席を持つ。参院で与党が3分の2を占めるためには参院選で改選される59議席を86議席に増やす必要がある。しかし、一部野党も含めればハードルは下がる。首相の発言は改憲に積極的なおおさか維新の会などと連携し、自らの政権で念願とする改憲を実現することに意欲を示したものだろう。

 だが、首相のこの手順には大きな疑問がある。「3分の2」を目標に掲げながら、改正を目指す中身については「どの条項を改正するかは国会や国民的な議論と理解の深まりの中で、おのずと定まる」と述べ、明らかにしていないためだ。

 もともと改憲を党是とする自民党は2012年に9条を含めた憲法改正草案をまとめている。一方、党内では大規模災害などへの対応を可能とする緊急事態条項の改正を優先することが検討されている。「いきなりの9条改正は国民投票のハードルが高い」との計算からだろう。

 ただ、こうした方針は総裁である首相から国民に説明されていない。このまま選挙で発議に必要な多数派形成を目指すというのでは、改憲という目的だけを示し、要件のクリアに同意を求めるようなものだ。

 首相は第2次内閣発足後、改憲手続きの緩和に向けて96条改正の先行を掲げたが、「裏口入学」との批判を受けて引っこめた。国の基本に関わるテーマにもかかわらず、「何を変えるか」がはっきりしないまま改憲を実現しようとしている点は共通しているのではないか。

 改めて言うが、私たちは憲法改正そのものを否定しているわけではない。だが、改憲先にありきの発想ではなく、国民が必要性を納得できるようなテーマで議論を尽くすべきだと考えている。中身を後回しにして、順番を間違えてはいけない。

社説:首相の憲法発言 数合わせよりも中身だ - 毎日新聞

 

河北新報

憲法改正論議/震災便乗のお試し許されぬ

具体的な改憲項目については明言を避けているが「緊急事態条項」の新設を念頭に置いているとみられる。戦争やテロ、内乱や大規模災害などの発生時に政府の権限を強化したり、国会議員の任期延長を可能にしたりする規定だ。
 東日本大震災の初動体制の反省を理由に必要性が語られ、衆院憲法審査会でも議論されてきたが、災害対策が改憲の本当の目的なのだろうか。
 日本では災害緊急事態布告の規定もある災害対策基本法や災害救助法、大規模地震対策特別措置法など「法レベルの緊急事態条項」が整っており、災害時の応急対応は外国の憲法が定める緊急事態条項以上に精緻といわれる。
 であれば、東日本大震災を踏まえて見直すべきは、憲法の「不備」ではなく既存の災害法制を十分活用できなかった運用面ではないのか。
 現憲法では、国政選挙を実施できないほどの大災害が起きても国会議員の任期を延長できず、政治空白的な状況が生まれる懸念がないわけではない。だがそれも参院の緊急集会による立法を認めた憲法規定やその準用で対応は可能との解釈もある。
 何より、災害時の対応に向けて必要な法律を作っておくなど、緊急時を想定した備えを怠らないことこそ重要だ。
 自民党が2012年に公表した憲法改正草案からも読み取れるように、緊急事態が宣言されると国が強大な権限を掌握し、国民は人権や私権の制約を強いられる。政権が緊急事態を名目に独裁政治への道を歩んだ苦い過去がある。教訓を忘れてはならない。
 東日本大震災被災者支援に当たった各地の弁護士会は「震災対策に名を借りた改憲だ」と、強権政治への危うさを指摘し、一斉に反対声明を出している。災害対策としての実効性と国民が払う代償を冷静に見極めねばならない。
 改憲が党是の自民党にとって本丸は戦争放棄を規定した9条の改正にある。初の改憲発議が国民投票で否決されることがないよう、一見穏やかで比較的理解を得やすい災害やテロ対策で改憲に慣れてもらおうとの狙いなのであれば、国民軽視も甚だしい。
 震災から5年を迎える。津波原発事故で平穏な生活を奪われた約18万人がいまだ避難生活を強いられ、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」すら享受できないでいる。憲法の理念が復興に生かされていない中、震災に乗じる形で「お試し改憲」が語られることを、被災地としては見過ごせない。
 時代の変化に即して憲法を見直すことはあっていい。ただ、憲法発議者には憲法を尊ぶ姿勢が必要だ。個人の権利と自由を保障する、最高法規の精神の堅持は譲れない。ざわめき始めた改憲論議の本質を見定めたい。

 

2016年01月19日火曜日

社説|憲法改正論議/震災便乗のお試し許されぬ | 河北新報オンラインニュース

 

徳島新聞

社説 1月1日付  新年を迎えて  平和の道歩み続けたい 徳島再生へ人を育てよう  


 なぜ今「改憲」なのか


 今年は憲法が公布されて70年の節目でもある。

 第2次世界大戦が終わった翌年の1946年11月3日に、現憲法は広く国民に周知された。

 おびただしい命が奪われた戦争の傷痕が、生々しく残っていた時代である。

 二度と戦争はしない。戦争放棄を定めた憲法9条には、そうした国民の強い思いが込められていると言っていい。

 憲法草案が国会で審議されていた46年7月、徳島新聞の社説はこう書いている。

 <必要なことは他国から侵されたり、戦場化されたりすることをおそれるよりも、まづわが国自身が侵略国でない国として生れ変り、平和国家として成長することでなければならぬ>

 そして、他国からの侵略を防ぐ道は<真に平和国家となり、文化社会を建設して世界の進展に大きな役割を果すことにある>と記した。

 戦後、日本は平和主義の理想を高く掲げ、専守防衛自衛隊は一人の命も奪わずに来た。これからもずっと歩んでいきたい道である。

 だが、その道が今、見失われつつある。安倍首相が参院選後に憲法改正を目指す意欲を示しているからだ。緊急事態条項の新設などが想定されているが、9条が本丸なのは間違いない。

 自民党改憲草案には、「国防軍」の創設や人権を制限するような条項がある。安保法と、昨年末に運用が本格化した特定秘密保護法を考え合わせると、強い危惧を抱かざるを得ない。

 戦後の歩みを続けるのか、それとも変えるのか。選択を迫られる時が近づいている。

 私たちは70年前に訴えた主張を変えないつもりだ。真の平和国家になることを諦めない。


 次はないという覚悟で

新年を迎えて 【社説】- 徳島新聞社

 

沖縄タイムス】<社説>
■首相、改憲に意欲 9条と地位協定を語れ

安倍首相は10日放送のNHK番組で、夏の参院選では自民、公明両党のほか、おおさか維新の会など憲法改正に賛同する政党を合わせ、改正発議に必要な3分の2の議席を目指す考えを表明した。

 軽減税率協議で公明党の主張を受け入れたことも、所得の低いお年寄りに対する3万円の現金給付も、年明け早々の国会召集も、すべて参院選を意識したもので、その先にあるのは憲法改正だ。

 改憲勢力の結集を目指す一方、首相は具体的な改憲項目に関し「これから議論が深まっていくだろう」と述べるにとどめている。

 自民党改憲の優先項目としているのは、大災害や外国からの武力攻撃に対処するため政府の権限を強化する「緊急事態条項」の創設である。

 地震やテロが発生した場合に備えてと言えば、国民の理解が得やすいと考えているのだろう。本丸の9条改正の抵抗感を和らげたいとの思惑が透ける。

 集団的自衛権の行使を盛り込んだ安全保障関連法について政府は、フルスペック(全面的)行使はないと強調してきた。9条改正によって全面的行使が可能になれば、あの議論は何だったのかということになる。 ………(2016年1月12日)

【沖縄タイムスの社説】首相、改憲に意欲 9条と地位協定を語れ : 47トピックス - 47NEWS(よんななニュース)

 

神戸新聞】<社説>
■改憲の争点化/首相発言に懸念が膨らむ 

「未来に向かって責任感の強い人たちと3分の2を構成していきたい」との言葉は、改憲について従来の「国民的な議論」に期待を寄せる発言に比べ、踏み込んだ内容だ。国民にとって唐突感は否めない。

 強気の背景には安全保障関連法成立後に下落した内閣支持率が回復傾向になったこともあるのだろう。

 自公両党は衆院で3分の2を超える議席を持つが、参院で3分の2超に達するには改選議席に27の上積みが必要で、ハードルは高い。おおさか維新の会などの協力を得られれば、国会発議は現実味を増す。

 だが、安倍首相は憲法のどの条項を改正するかは語らず、改憲への意欲ばかりが前面に出ている。

 念頭にあるとみられるのは「緊急事態条項」の創設だ。大災害時などに首相の権限を強化し、国民の権利を制限する。憲法学者らの間では「現状でも対応は可能」など否定的な意見が少なくない。

 ただ、安倍首相が9条を改憲の本丸とする考えに変わりはないだろう。これまでも正面突破を避けながら改正を目指してきた。第2次政権発足直後には、改正の発議要件を緩和する96条改正に意欲を示した。

 その後、閣議決定で9条の解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認し、安保関連法を成立させた。「違憲」とする憲法学者が大半であり、本来、憲法改正を発議し、その是非を国民に問うべき問題である。

 憲法の空洞化を進める一方、足場が一定程度固まったのを見計らって改憲の積極発言に踏み込む。これでは懸念が膨らむばかりだ………(2016年1月15日)<記事全文>

【神戸新聞 社説】 改憲の争点化 首相発言に懸念が膨らむ : 47トピックス - 47NEWS(よんななニュース)

 

 

[京都新聞 2016年01月12日掲載]首相と改憲何を変えたいのか示せ

自民、公明両党は衆院で定数の3分の2を上回る議席を持つ。参院(定数242)でも3分の2超の162を確保するには、改選議席から27伸ばして86議席を獲得しなければならない。おおさか維新の会(非改選5)や日本のこころを大切にする党(同3)の協力を取りつけ、ハードルを下げるのが狙いだ。
 参院選に向けて民主党維新の党には合流構想があり、改選1人区での野党共闘の取り組みも進んでいる。ただ、安倍政権下での改憲に反対する民主党に対し、維新の党は統治機構改革のために改憲が必要という立場だ。意見が食い違うテーマを持ち出すことで、野党の連携をけん制する思惑もあるのだろう。
 将来的な9条改正を視野に入れつつも、首相は大規模災害や他国による武力攻撃の際の首相権限強化などを柱とする「緊急事態条項」の創設を念頭に置いているとみられる。自民党が優先的な改憲項目と位置付け、他党の賛同が得やすいとみているためだが、首相自身は方針を明確に示していない。
 そもそも、緊急事態条項では、国民の権利制限という重大な影響が生じる懸念がある。参院選で争点とするのであれば、詳しい内容を速やかに明らかにし、国会での議論を通じて国民に改憲の是非を判断してもらうべきだ。ましてや衆参同日選に踏み切ることも検討するのなら、曖昧なままにしておくことは許されない。

京都新聞 社説 - 首相と改憲

新潟日報【社説】2016/01/05 08:30


 参院選の結果、改憲勢力が3分の2を占めれば憲法改正への動きが具体化する可能性がある。


憲法改正は今なのか

 政策選択の議論と、選挙、政局の動向は、私たちの未来につながる。国会は熟議し、あるべき道を示さねばならない。

 安倍晋三首相は4日の年頭記者会見で、「夏の参院選でしっかりと訴えていく。国民的な議論を深めていきたい」と述べ、参院選の争点として憲法改正を掲げる考えを表明した。

 11月には憲法公布70年を迎える。参院選からは18歳、19歳が新たに有権者となり政治に参画する。首相の「改憲宣言」には、こうした節目を意識して改憲機運を高めたい思惑がのぞく。

 国民的議論を深めることに異論はない。だが中身が重要だ。ムードに流されてはならない。

 安倍政権改憲項目として「緊急事態条項」を念頭に置く。与野党の賛同が比較的得やすいと見込んでいるからだ。

 改憲への抵抗感を和らげ、その先に9条改正や国防軍創設条項などを思い描いている。

 災害や外国からの武力攻撃など緊急事態への備えが大事なのはもちろんだ。だが、まず現行法制や新法で対応できないことなのかどうかが、慎重かつ冷静に検討されるべきである。

 そのことを抜きにして進めるならば、改憲ありきとの批判は免れないはずだ。

 参院には自民、公明の与党と、改憲勢力と目される、おおさか維新の会の非改選議席が81ある。憲法改正に必要なのは162議席だが、残り81議席の確保は情勢次第で不可能ではない。

◆多様さ踏まえてこそ

 有権者は腹を据えて1票を投じなければならない。改憲を提起するなら、与党は思惑先行でなく、全ての設計図を示した上で論議を始めることだ。

 ただ、自民党は過去の選挙では経済課題を前面に、安保や憲法改正を強く主張しなかった。

 改憲論議は深まっていない。世論は大きく割れている。与党が勝っても、一息に改憲を提起するのは時期尚早といえよう。

http://www.niigata-nippo.co.jp/sp/opinion/editorial/20160105226793.html