【詩作品】バスが転がって
蒸し暑く
夜の風は町をざわざわと通り過ぎる
その下で
僕の魂は夜のバスに揺さぶられている
寂れた道の停留所から走り出した
笑ったり
苦し紛れにしゃべりすぎたり
苛立ちすぎたり
そんな今日を思い出していた
光から光へ
苦痛から現実へ
三号系統を
走る時
窓外には行くあてを見失った文明が
あるのだ
私はたわいないような、真剣なような
真実であるか、希望であるか、謎であるか
同伴者たちと話をするが
意味は決めない
意味なんて決めて理解できた
試しはない
意味にこだわりながら
意味のわからなさに怯えている
この夜が過ぎるだけである
夜空の向こう側にかつて見たような
平凡で破壊された日常を
20年経て取り戻した普通の
しかし核燃料さえ溶けたはずの
末世を落ち着きなく走るのだ
巨大なターミナルに降り立つと
芋づるのように引き出された記憶が
繁華街に広がっていく
芋づるのようなものに
縛られて
僕はあの人やこの人と笑ったり
泣いたりした
誰もがそれを逃れることもなく
しかし忘れていき
日々は寄せては返す
なぜか
私は些細なことが忘れられない
些細なことが忘れられないのは
悲劇のヒーローやヒロインではなく
ただ
そのようにしか生きられないと
いうことだ
暗闇を見上げると
冷たい空気が降りてきて
誰かがクシャミする
クシャミの回数に迷信があることを
思い出す
夜の地下に吸い込まれながら
夏に向かう予感に
やるせなさと
わずかな夢の行く先を
ころがらせる