細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

大阪市放射線教育の問題点についての動画/白石草さんの報告からわかるウクライナ政府にとっての保養の意味

大阪市教育委員会と市民団体の放射線教育に関する団体交渉です。抜け落ちもあるかもしれませんが論点をまとめます。

1.放射線知識普及連携プロジェクトと関西原子力懇談会の関係
大阪市教育委員会はこの二つの団体を「それぞれの団体」として認識していると回答。
(しかし市民の調査は二つの団体は事務局が同じでありほぼ同一の趣旨の団体であることがわかっている)
2.放射線教育サポートシステム。ここが作成するワークシートは100ミリシーベルト以下の被ばくはタバコなどに比べてリスクが小さく、関西原子力懇談会は「放射能は怖くない」を子供に教え込もうと目指しているのではないかという問い。

大阪市は「それなりの専門家が見識に基づいて作成しているものだと認識している」
(筆者:答えになっていないように思われる)
3.放射線知識普及プロジェクト=関西原子力懇談会であり、お金の問題も含め問題があるのではないか。
大阪市はそれぞれ別団体なのだから問題ないという認識。

4.関西原子力懇談会の資金面・運営面が不透明であり、大阪市はそこと連携するならば調査が必要ではないか。
大阪市は調査は必要ではないと回答。
(筆者:税支出がされているならば、何らかの調査は必要と思われる)
5.以前大阪市教育委員会の担当者は放射線の「功と罪」を教えなければならないといっていたのに、文科省の副読本は「功」に偏りすぎて問題ではないか。
大阪市は「文科省の副読本作成委員会で専門家が作成したものである」と回答。
(筆者:リスクも教えてこそ、公平な教育といえるはずであり回答になっていないように思われる)
6.副読本は問題が指摘されているにもかかわらず全学校配布をしようとしたのはなぜか。
大阪市は前回の副読本より改訂版は福島の事故について書かれていると認識している。しかしまだ完成版ではないので中身を改めて精査する。
7.命を守るため被ばくのリスクを適切に示す必要があるのではないか。また文科省放射線出前授業は問題ではないか。
文科省は「放射線の正しい理解」を目指している。そこに皆さんの要望は入っているのではないかと大阪市は回答。
(筆者:リスクがある物質であるということは、しきい値なしであることから明らかであり、さらに議論の途上であったり未知のリスクもあり得るという予防原則を知らねば、公害や環境汚染と同じ轍を将来の子どもたちは踏んでしまいかねない)
8.近代原子炉での教員の研修会は日本原子力協会の委託事業であることを知っていたか。その出張を公務と認めるのは問題ないか。
大阪市は委託事業であるとは知らなかった。出張扱いは学校長の判断。
(筆者:知らないふりをしているのではないかと勘繰ってしまう)


市民の皆さんのご指摘を簡単にまとめます。
・そもそも関西原子力懇談会は関西電力の影響が極めて強い団体であり、原子力推進の団体が大阪市の教育に関与することは問題であるということ。
・これまでのように無批判に安全神話を受け入れてはいけない。
放射線の活用面だけではなく、福島の事故を教訓に放射能原子力のリスクについても子供たちに教えることが必要。それは放射能汚染原子力が子供たちの世代の命にも影響を与えるものだからだということ。
・また大規模な被害と影響が懸念されていて現実に避難者が出て甲状腺がんなどの問題も出ている。
・国民の多くも原子力のリスクを認識するようになった。それを反映しないのはおかしい。
・こういう状況下で国や原子力団体の意見を垂れ流すのは大阪市の教育を担う機関として良心を欠いている。
文科省に対してもこれらのことをぶつけていくべきではないか。

私からは付け加えることはあまりありませんが、今後子供たちが自らリスクに備えるためにも、放射線に安全というしきい値はないということは相当前からわかっていること、医療放射線も病気の発見という功があるから使っているが必ずリスクがあり、被曝を低減させる必要は専門家からも指摘されていることなどなど、市民のリテラシーを向上させずに、今後原子力放射能の問題を考えさせるのは危険極まりないと思います。

大阪市教育委員会の方々も上層部や文科省からの強い圧力があるのか言葉を濁したり沈黙する場面が多く、放射線教育についてその実情を調査したいというにとどめるだけでしたが、放射能のリスクや原発事故について原子力団体や国の言うことだけではなく、市民の懸念も理解しているといっており、非常に難しい局面だと思いました。
しかしナイフや包丁の使い方でも車の乗り方、薬の飲み方も必ずリスクを教わるものです。放射能だけそうではないというのはやはりまずいと思いました。


#############################

次にウクライナでの低汚染地域コロステンにおける子供たちの保養やチェルノブイリ法の運用について興味深い報告がありました。
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1699

OurPlanetTVは今年11月、ウクライナを2週間ほど訪問し、低線量汚染地域(年間0.5ミリ〜5ミリ)において、子どもたちの健康はどうなっているのか、どのような被ばく防護策がとられているかを取材した。その緊急報告会を参議院議員会館で開催した。汚染地域での子どもの健康を守るため、教育科学省や教育委員会、学校がどのような役割を果たしているのか。特に健康診断や保養システムに焦点を当てて報告した。
 
報告:OurPlanetTV 白石草
コメント:学芸大学 大森直樹准教授(『東日本大震災と教育界』『福島から問う教育と命』)


http://www.ustream.tv/recorded/41591400
http://www.ustream.tv/recorded/41591531
http://www.ustream.tv/recorded/41591885
http://www.ustream.tv/recorded/41591913
折しも政府のこのような所業が毎日新聞によって報じられました。

東京電力福島第1原発事故への対応の参考にするとして内閣府が2012年3月、ロシアなどへ職員を派遣し、旧ソ連チェルノブイリ原発事故(1986年)の被災者支援を定めた「チェルノブイリ法」の意義を否定する報告書をまとめていたことが分かった。同法の理念を受け継いだ「子ども・被災者生活支援法」の法案作成時期と重なるが、非公表のまま関係の近い原発推進派の団体などに配られていた。

 支援法は、線量が一定以上の地域を対象に幅広い支援をうたって12年6月に成立したが、今年10月に支援地域を福島県内の一部に限定した基本方針が決まっており、成立を主導した国会議員らからは「国は早い時期から隠れて骨抜きを図っていたのではないか」と不信の声が上がる。

 報告書はA4判30ページで、内閣府原子力被災者生活支援チームが作成。毎日新聞の情報公開請求で開示された。調査団は同チームの菅原郁郎事務局長補佐(兼・経済産業省経済産業政策局長)を団長に、復興庁職員を含む約10人。ウクライナベラルーシ(2月28日〜3月6日)とロシア(3月4〜7日)を2班で視察し、各政府関係者や研究者から聞き取りした。

 報告書は、チェルノブイリ法が年間被ばく線量1ミリシーベルトと5ミリシーベルトを基準に移住の権利や義務を定めたことについて「(区域設定が)過度に厳しい」として「補償や支援策が既得権になり、自治体や住民の反対のため区域の解除や見直しができない」「膨大なコストに対し、見合う効果はない」「日本で採用するのは不適当」などの証言を並べ、同法の意義を否定。両事故の比較で、福島での健康影響対策は適切だったと強調もしている。
http://mainichi.jp/select/news/20131201k0000m040098000c.html

つまり政府はチェルノブイリ法や子供被災者支援法はダメだといいたかったようなんですね。そこで、白石草さんがウクライナで二週間、学校や政府機関に行き調査をしました。

詳しくは動画を見てください。要点をまとめます。
・コロステンは第三区分=移住権利ゾーン(年0.5〜5ミリシーベルト
・事故当初は、甲状腺がん白血病など重病で死亡する子供も多かったが現在は、原因不明の頭痛やだるさ、集中力の低下、体の痛みなどの体調不良、慢性疾患、心臓病などの子どもが増えている。一人の子どもが複数の疾患を持っており、既存の疾患カテゴリーで説明できないことが多い。
・一般の心身の障害者認定のほかに、事故由来の障害者認定がある。
ウクライナ政府の報告書は、未来に備えて、ありとあらゆる疾患と放射線のデータを載せて、今後の検証と健康被害に役立てるものであり、IAEAICRPなどとはスタンスがちがう。つまり国民の健康を守るために何を見なければならず知らねばならないかが書かれている。科学的に不完全な内容とも言う人もいるが、子供たちを放射能や病気から守るという公衆衛生的な視点で書かれている。
汚染地域において、授業時間は短縮することができ、また体育についてもその子供の病気や体調面に合わせて三クラスに分かれている。基礎クラスは一般的な体育の授業、もう一つのクラスは休憩や軽い運動のクラス、3つ目は体の痛みやこわばりを防ぐため柔軟体操などがメインのクラス。障害のある子供については体育免除がある。子供たちの心拍などの身体能力テストをしてクラス分けをしている。これは政府が体育で、死亡したり体調が悪化する子供が出たため、対策をとったといわれている。政府は公式には「予防」といっている。
・内分泌センターなどチェルノブイリ法における健康支援のための拠点病院が汚染地域にあり、学校や地域と連携している。
・コロステンは事故直後は10マイクロシーベルト毎時を観測することもあったが、27年後の現在は0.06〜0.1マイクロシーベルト毎時で安定している。
子供たちの保養はとても重視されている。学校と地域の行政や医師が連携し、それぞれの子どもの心身の状態にあった保養プログラムを指定している。またその保護者も三週間ほどの休暇を同時に取ることができる。
1986年の夏休みにはキエフのような低汚染区域も含め、ウクライナの多くの子どもが保養に出ており、この年の夏はウクライナに子どもがいなかった夏と記憶されている。
チェルノブイリ法については、薄く広く救済する形態ではなく本当に必要な人に手厚くという意見や、コスト増や当初の指定地域を国ではなく地域が見直す形になっているため見直しが出来ず線量が下がっても多くの地域は指定を外したがらないという批判、移住政策は移住民の定着が難しかったなどの批判はあるが、コロステンの市長なども汚染地域の居住リスクを認めており教育科学省もチェルノブイリ法の必要性を疑ってはいない。
・繰り返すがコロステン市長も放射線影響には懐疑的だが、汚染地域での居住リスクは認めており、保養の意義も認めている。
ウクライナにはかねてから、保養の習慣があったからかもしれないが、とにかく子供を守ることは大切だということで、チェルノブイリ法に批判のあるコロステン市長、国家戦略局の役人も健康被害放射線の因果関係には否定的であっても、万が一のリスクに備えるため保養は必要であると認めていること。つまり明らかに推進派であるような政府の役人ですら、保養で子供たちの健康を守ることが必要であると認めていること。つまり保養政策はウクライナ政府の国是とも呼べるものである。

このようにウクライナチェルノブイリ法に基づく保養や支援をみると子供や人間の健康を守るための視点が日本には大きく欠けているといわざるをえません。