細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

生活保護運用の問題点を指摘され、憲法25条改正を主張する橋下市長と今日の社会保障及び憲法議論

生活保護制度は日本政府が提供する最後のそしてほぼ唯一のセーフティーネットです。

しかし本来生活保護を受けられるほど低い所得水準にある多くの人々に、日本政府及び全国自治体は生活保護サービスを提供することができていません。弾力的に運用している自治体や福祉事務所もありますが、ひどい処遇や水際作戦の自治体もかなり存在しています。

これは極めて低い補足率にあらわれています。しかし政府や橋下のような自治体トップなどは全体から見るときわめて低い割合の不正受給で大騒ぎしています。

今日、単身で子育てをする家庭、独身中高年齢層、低年金の高齢者、障害者など多様な貧困層が存在します。少子高齢化の中で、子供の貧困率の増大も見落とされ、多様な家族像や新たな貧困の姿に、日本の社会保障制度は対応できていません。生活保護制度や他に多様な給付制度が使いやすい形で存在するかといえばそうでもないからです。

そもそも「個人」単位でなく「世帯単位」で給付する、あるいは親族の扶養義務を強く問い、働けないような人も無理に働かせて受給抑制したりする生活保護制度は、憲法25条にうたわれた「普遍的な」給付サービスの姿から程遠いとしか言えません。まともな自治体や良心のあるワーカーがいくら努力しても、です。

安倍政権は付け焼的に一億総活躍などといい、福祉政策をぶちあげましたが具体像はなく、また野党も極めて深刻な貧困問題について、政府を強く追及するということができていません。

 

そういう中で大阪維新の会の橋下市長のように、行政の受給抑制策を合理化させようとするために、憲法25条の改正を訴えようとする嘆かわしい政治家すら跋扈し、これが特に問題にされない状況です。

 

13年、大正区の30代男性が生活保護を申請したところ、「週3回以上ハローワークへ行き、1社以上の面接を受けること」とする「助言指導書」が出されました。男性は血圧200と、働ける状態ではありませんでした。

 大口氏は「保護開始前の申請者に指導するのは違法。医師の診察を受けさせ、保護を開始してから就労指導するのが本来の手順だ」と指摘します。

 市の生活保護受給世帯の内訳をみると、65歳以上の「高齢世帯」が2531世帯増なのに対し、高齢世帯以外が3003世帯減っています(12~13年度)。高齢世帯以外には、母子世帯や傷病世帯、16~64歳の若年層が含まれます。

 大口氏は「高齢世帯以外の減り幅は異常だ。生活保護は、利用者の『自立を助長する』のが大事な点。この点がないがしろにされている」と話します。

 市がこの世帯を稼働年齢層(働ける層)と想定して「きわめて厳しい姿勢と強い方針でその抑制を図った」と分析するのは「大阪市生活保護行政問題全国調査団」(14年)です。法律家や学者・研究者、団体でつくる調査団は昨年、▽市独自のガイドラインを用いた申請時の稼働年齢層排除▽行き過ぎた扶養照会▽全区に複数配置された警察OBの役割▽人員不足、職員の資格取得率の低さといった体制の不備―などの実態を明らかにし、そうした「『大阪独自方式』は違法・不当」だとして市に改善を求めました。

 橋下市長は後日、テレビ局の取材に「ルール違反があった」とする一方、「ルール自体を変えたい」「憲法25条の改正も必要」だと述べました。

大阪維新「市の生活保護費が減少」誇るが/「ルール違反」で支援抑制/橋下市長“憲法25条変えよ”より引用

見れば見るほどおぞましい大阪市生活保護行政の実態です。

働ける年齢にある人は、その方が病気でも、母子家庭であっても、どんな理由があっても働くよう言って、生活保護費を申請させないようにしているという専門家集団の調査結果が出ているようです。

 

橋下市長は、これらの事実を改めようとするのではなく、むしろ正当化するために憲法25条を改正せよと主張しているようです。

ネット動画を探したらありました。

www.youtube.com

これは厚生労働省からすら大阪市の問題点を指摘され、抗弁し、憲法25条の改正を言い募る橋下市長の姿です。

いかにも理路整然と話し、世間の向こう受けを狙うように話している感じもありますが、機械的に働ける人とそうでない人、本当に援助が必要な人とそうでない人を見分けられるかのような不可解な前提に基づいて立論しているように私には見えます。

このようなことは生活保護の現場、特に申請する人々の状況を丁寧に理解し、それを公的に支援するためにどうしたらいいかと考えあぐねている行政リーダーの姿のようには私には見えません。

生活保護受給権者のご負担」とはいったい何なのでしょうか。受給権者は金銭的・肉体的・心理的・社会的に負担に耐えられないので申請にやってきたのではないでしょうか。

楽々と働けるようであれば、誰も生活保護の申請を考えません。

以下資料を発見しました。

生活保護制度の見直し(案)に対する意見 (H25.3.11:社会・援護局関係主管課長会議資料より) 平成25年3月 大阪市

http://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/cmsfiles/contents/0000224/224707/124.pdf

恐ろしいことがたくさん書いてあります。

当たり前という人もいるでしょうが、保護受給者の権利が制限されるないようになっている点に私は懸念しています。

自立活動確認書の作成は、主体的に自立を目指すために効果的と思われるが、正当な理由なく計画どおりに進ま ない場合には、文書による指導指示を行った上で保護の停廃止が可能となるよう明記するべきである。

事実上、仕事探しをさぼったら保護を停止するよといっているわけです。

多くの生活困難を抱えた人々が、脅せば仕事を探すようになると考えているのでしょうか。

医療扶助の適正化策として後発医薬品の使用促進を図るのであるならば、特段の理由がある場合を除き、後発医 薬品の使用を義務付けるべきである。

生活保護受給者は、ジェネリックで我慢せよというわけです。ジェネリックというのは、元々の薬と微妙に使用感が異なる時があるのですがどうするのでしょうか。

他にもつっこみどころはありますが置きます。

 

さて、もちろん税金で賄われている制度だという前提は共有したとしても、生活保護制度は受給する人々が、憲法に明記された権利を行使する手助けをする制度でもあるのです。

橋下市長や大阪市の制度理解はいたずらに行政の「費用」「都合」「税金の無駄遣い」の方角からしか制度が理解されていないのではないかと恐れます。

そしてこれは大方の日本国民の標準的理解と近いから問題なのではないかと思います。

困ったときに、頼るのは甘えではありません。むしろ、困ったときに頼るスキルがなかったり頼る場所がないということは、非常に危険な状況に困窮者や弱者を追い込んでいくということがわからないのでしょうか。

それは北九州方式でおにぎりも買えずに死んだ方の例を見ればよくわかるはずです。

DV被害者や幾重にも傷ついた障害者・病者らが、自分で極限まで頑張れとされて、命を削ってしまうということは容易に想像できることです。

本人が選んでいない様々なハンデがあります。

本人の努力不足のせいに見えるが、その人の周囲に支援の手が届いていないケースや本人が支援にたどり着けない場合があります。

そのようなことを想定した場合憲法25条や現在の生活保護制度が甘いなどといえるのでしょうか。

彼らが生きる気力を取り戻して、お金を稼いだり社会的な活動をする元気がわけばそれはまず本人にとっても社会にとっても良いことだという理解がないのではないでしょうか。

どのようなイデオロギーに立とうと、広く生活に困窮している人々の実像や彼らの声に耳を傾け、人々がより良い生活をしようとする気力を取り戻せるために、あるいは障害や様々な困難とともに生きるために、しっかり所得保障を行う必要性を理解していただきたいものです。

またそういう行政が必要なのです。

 

そういえば、生活保護費をプリペイドカードで支給するというとんでもないことを始めたのも大阪市・橋下市長のもとでありました。公的な行政の責任をどう考えているのか。誰のための生活保護制度化理解しているのかこのような懸念もあります。

3月24日、生活保護問題対策会議とともに、三井住友カードに対して公開質問状を提出した社会運動家生田武志氏(反貧困ネットワーク大阪)は、質問状の中で、

 「本モデル事業が『貧困ビジネス』になりはしないかと危惧いたします。『貧困ビジネス』とは、生活保護受給者の囲い込み・支援費徴収や消費者金融ヤミ金融など、貧困層をターゲットにした反社会的な営利行為のことです。なかには暴力団など反社会的勢力が関わるものもあると言われ、近年、日本社会に貧困が広がるなか社会問題となりました」

 と懸念を示し、

 「モデル事業後の生活保護分野に対する事業受託の計画内容・公的分野への参入について具体的に教えてください」

 「全国自治体の生活保護分野へのプリペイドカードの導入によって貴社が得ることのできる預託金・決済手数料・入金手数料等の試算総額を具体的に教えてください」

 を含む10項目の質問を行っている。特に後者、預託金・決済手数料・入金手数料などカード会社の得る利得については、弁護士たちも大阪市に対して情報公開請求を行っているが、「なぜ、その会社なのか」「その会社は、どのような利得を得るのか」など根幹に関わる部分が黒塗りとなっていた。

diamond.jp

これでは生活保護受給者ではなく、企業を潤わせるために行政が生活保護制度を民間に明け渡していると取られても致し方ありません。

 

震災瓦礫の広域処理が進まないのを、憲法9条のせいにしたこともある橋下市長です。

それらについて、盟友の松井知事や維新の会の人たちが訂正させたということも特段見当たらないので、自分たちの政策が思うように進まないなら、国の基幹的な法律である憲法を改正していいというお考えなのでしょう。

ご自身の政策を実現する努力、震災がれき処理のように慎重な住民との議論と検討を経て、決定されるべき課題について安易に憲法改正を主張するかのような政治家は非常に問題があると思います。

安倍政権大阪維新の会の橋下市長らは、自分たちの都合や時宜に応じて憲法の解釈や文面を変えるといい募ることができるようです。

 

これらの政治家が憲法の趣旨を理解して、実現すべき課題を解決するのではなく、自分たちのできないことを何でも憲法のせいにするのであれば、そのような憲法議論・憲法改正議論に真面目にお付き合いすることはできません。

また、日本の、あるいは大阪の市民に呼びかけたいのです。

国の重要なルールを自分たちの都合でころころ変えようとする政治家あるいは政治集団の姿勢を許していいのだろうかと。