細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

福島事故において、低線量被ばく影響から人々を守ることが大切だと指摘するエビデンスベースの資料を紹介

疫学、統計学の基礎を紹介しながら、いかにそれが踏まえられないまま放射線被ばくのリスクの軽視がまかり通っているかがわかりやすく紹介されている。
動画が長いので、この講演のもととなる資料をネットで発見した。

【100mSv以下の被ばくでは発がん影響がないのか 統計的有意差の有無と影響の有無】

津田敏秀(教授、岡山大学大学院環境生命科学研究科)、山本英二(教授、岡山理科大学総合情報学部)、鈴木越治助教岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)


(1)「実際、2013年3月9日に福島市で開かれた福島県環境省が主催した放射線の健康影響に関する専門家意見交換会においては、福島県アドバイザーである広島大学神谷研二教授や、文部科学省放射線審議会の前会長であった丹羽太貫氏も同席する中で、放射線には発がん閾値がなく、100mSv以下でも放射線によるがんが発生してくることが確認され、出席者の誰からも異論はなかった。

(2)「統計的な有意差がないと言っているだけで、100mSv以下では発がんしないと言っているわけではないのである。

(3)「1978年、ニューイングランド医学雑誌(New England Journal of Medicine)に掲載された特別論文は、統計的な有意差がなかったがゆえに「Negative」とされてしまった71編の臨床試験の結果のうち、点推定値と区間推定値で示すと実はPositiveな影響があったと思える結果が多数あることがわかることを示し、βエラー(第2種の過誤:影響があったのに影響がなかったとする誤判定)を考慮することの重要さを強調した。」

(4)「統計的有意差がないことにより影響がないことと誤解されないように注意しなければならないことが、警告されていたのである。残念ながら、現代の日本において、この警告が必要な事態が発生しているようである。」

(5)「Cardisらの(2005年のチェルノブイリ小児被ばく者の症例対照研究に関する)論文(E. Cardis et al.,: JNCI, 97(19) (2005) 724.)は・・・被ばく量がカテゴリーに分けられていて、0〜16mGyと他のカテゴリーとが比較されている。したがって、まったく非曝露の集団と比較されたわけではない。曝露が若干ある分、人工被ばくの影響は過小評価されている。環境曝露影響を評価する症例対照研究では、観察対象者内部での比較になりやすいので、まったく人工被ばくのない集団との比較(外部比較と呼ぶ)はしばしば困難である。」

(6)「オックスフォード小児癌調査(1953〜1967)のデータ(R. Doll & R. Wakeford: Br. J. Radiol., 70 (1997) 130.)・・・これらの研究を総括して、Dollら(1997)は、「子宮内で胎児が受けた10mGyごとの放射線量が小児癌のリスクを上昇させているという結果を生じさせている」と結論している。
http://behind-the-days.at.webry.info/201307/article_2.html

なぜしきい値なし仮説が放射線防護の基礎として世界中で用いられているか。適切なデータの理解がなぜ必要なのかはっきりわかる。
騒ぎすぎではなく素人もアクセスできるデータの理解を専門家が間違っているという指摘なのである。

次にチェルノブイリ事故で甲状腺がん影響が確定していくまでの紆余曲折である。
大変力作のまとめである。
チェルノブイリ甲状腺がんの歴史と教訓 - Togetterまとめ

 Cardis ら(2005年)が線量応答を発表した直後、以前からチェルノブイリ甲状腺がんに懐疑的であった Boice は、自身の論説で次のようにコメントしている:

 “1998年の論説で私は、被ばく由来の甲状腺がんについて学ぶべきことは、もうほとんど残っていないだろうと述べた。私は間違っていた。”

 “チェルノブイリからの降下物による重度の被ばくが甲状腺がんを増加させたことは、疑う余地のないことである。Cardis らは今日までで最も包括的かつ定量的なリスク評価を提供している。”

 また、Elaine Ron(1992年の Nature に懐疑論を公表した 1人。惜しまれつつ2010年に他界)は、2007年にはチェルノブイリ甲状腺がんの総説論文を書くまでになっている。


  児玉龍彦,医学のあゆみ (2009)
  チェルノブイリ原発事故から甲状腺癌の発症を学ぶ―エビデンス探索 20 年の歴史を辿る
  http://plusi.info/wp-content/uploads/2011/08/Vol.28.pdf

  Boice,JNCI (2005)
  Radiation-induced Thyroid Cancer - What's New?
  http://jnci.oxfordjournals.org/content/97/10/703.extract

  Ron,Health Physics (2007)
  Thyroid cancer incidence among people living in areas contaminated by radiation from the Chernobyl accident
  http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18049226


 以上のように、チェルノブイリ甲状腺がんの歴史は予想外の連続であり、大物たちにすら先の見通しが立たないものであった。

 大物に懐疑論をぶつけられたからといって、あきらめてはいけない。

この教訓を生かして、早期の発見と被ばく防護が必要である。
だから私は子供被災者支援法が重要だと考えている。

さらに国連科学委員会について人権団体のヒューマンライツナウが大変重要かつ精密な反論を行っている。

(2) また、国連科学委員会は、乳児と小児の甲状腺がんリスクの増加を推測する一方、他のがんリスクの向上を「予期されない」とするが、これは、最近の疫学研究が低線量被ばくの健康影響を明確に指摘しているのに矛盾するものである。

放射線影響研究所広島・長崎の原爆被害者の1950 年から2003 年までの追跡結果をまとめた最新のLSS(寿命調査)報告(第14報、2012年) を発表している。この調査は、全ての固形がんによる過剰相対リスクは低線量でも線量に比例して直線的に増加することが指摘されている。 

カーディスらの行った15ヶ国60万人の原子力労働者を対象とした調査で、年平均2ミリシーベルトの被ばくをした原子力労働者にガンによる死亡率が高いことが判明している。

BEIRをはじめとする国際的な放射線防護界は、100mSv以下の低線量被曝についても危険性があるとする「閾値なし直線モデル」(LNT)を支持しており、100mSv以下の被曝の健康影響を否定していない。

さらに、今年になって発表された以下の2論文は、低線量被ばくの影響について重大な示唆を与えている。

まず、オーストラリアでなされたCT スキャン検査(典型的には5〜50mGy)を受けた若年患者約68万人の追跡調査の結果、白血病、脳腫瘍、甲状腺がんなどさまざまな部位のがんが増加し、すべてのがんについて、発生率が1.24倍(95%信頼区間1.20〜1.29倍)増加したと報告されている 。また、イギリスで行われた自然放射線レベルの被ばくを検討した症例対照研究の結果、累積被ばくガンマ線量が増加するにつれて、白血病の相対リスクが増加し、5mGy を超えると95%信頼区間の下限が1倍を超えて統計的にも有意になること、白血病を除いたがんでも、10mGy を超えるとリスク上昇がみられることが明らかになった 。


 科学委員会の見解は、低線量被ばくの影響を過小評価するものであるが、最近の疫学研究の成果は明らかにこれと反対の傾向を示している。科学委員会は最近の疫学研究を踏まえて、低線量被ばくについて、より慎重なアプローチを採用すべきである。

4 他の研究との整合性の欠如

 健康影響がほとんどないとする科学委員会の見解は、WHOが2013年に公表した福島原発事故の報告書の予測とも著しく異なるものである 。WHO報告書は、「福島県で最も影響を受けたエリアは事故後一年の線量が12~25mSvのエリアだとして、白血病乳がん甲状腺がんとすべての固形がんについて増加が推測される。子どものころの被ばく影響による生涯発症リスクは男性の白血病で7%増加し、女性の乳がんで6%、女性についてのすべての固形がんで4%、女性の甲状腺がんで70%上昇すると予測される」とし、事故後一年の線量が3ないし5mSvの地域でも、その1/3ないし1/4の増加が予測される、としている。さらにWHO報告は、低線量被ばくに関する科学的な知見が深まれば、リスクに関する理解も変化する、と結論付けている。

 さらに、国連科学委員会は、今回の国連総会に対する報告で、福島原発事故の影響と並んで、子どもに関する放射線影響に関する研究( Scientific Finding B. "Effects of radiation exposure of children")を紹介している。この研究は、子どもに対する放射線被ばく影響については予測がつかないことから、より慎重に今後研究を進めていくとしており、評価しうるものである。ところが、子どもに関する放射線影響に関する研究についての報告に貫かれている慎重な視点は、福島原発事故に関しては全く反映されておらず、報告書の文脈は分裂している。

 科学委員会は、子どもに関する放射線被ばく影響に関する見解と統一性のあるかたちで、福島事故後の健康影響について再検討すべきである。

【共同声明】日本の市民社会は、国連科学委員会の福島報告の見直しを求める。 | ヒューマンライツ・ナウ

国際的な被ばくの権威とされるUNSCEARが従来の被ばく研究と全く異なる結論を福島の事故について主張してしまっていることが鮮やかに指摘されている。早急な改善を願う。