保守主義を理想視するのは少しやめたほうが。
「保守」というのは、国家や共同体や慣習の維持という意味で「保守」なんです。
故に何を守るかで話が変わってしまいます。
国家や天皇を守るということが一番にくれば、人々の命は粗末にされました。それが戦争です。
日本最大の保守政党は自民党です。
彼らが守ってきたのは、自分たちの仲間である官僚や企業と自分たちの利権です。
日本には「自然環境を守る保守」「人の命や暮らしを守る保守」なんて上品なものはあまりいないでしょう。
石牟礼道子氏のような方は古典教養のある、水俣病から近代より遥か先を見通す文学者ですが、彼女を保守主義というのも変な気がします。
ダムや空港や原発を建てて、街や自然や故郷の絆を壊したのは自民党のような保守政党です。
それどころか、近年保守は「エコロジストは過激すぎ」「フェミニストはうるさい」「人権人権だとひ弱な!」と言っている人が大半です。
アメリカのコミュニタリアンが保守主義かと思われますが、女性の権利や差別を是正する政策に反対する事が多いです。
彼らがいう「古き良き時代や家族のあり方」を守るのが保守です。
古き良き=男や父が偉ぶっている、です。
往々にして反動化するのが実情です。
ハイエクのように全体主義に抵抗した保守主義者もいますが、ハイエクはのちにネオリベの元祖として崇められてしまいました。ハイエクの意図ではなかったとは思いますが、ハイエクやポパーは資本主義が生み出したファシズムにも、ソ連のスターリニズムにも反対でした。
彼らの敵は、計画できるはずのないものを計画したり操作しようとするもの、結論ありきで、検証を怠った科学主義に向けられていました。
二人とも自由主義陣営の思想家ですが、本質的には近代批判の部分があったんでしょう。
それをあとから保守主義者が我が意を得たりと思ったのかもしれません。
しかし保守主義者が水俣や福島で目覚ましい活躍をした話はあまり聞きません。
むしろ石原慎太郎のように水俣病患者を差別する人や、曽野綾子や渡部昇一や副島隆彦のように放射能は平気だと豪語したり、、
別に左翼が偉いと言うわけでもないですが。
原発事故で、傷ついた経済を守るために、銀行や東電を維持しなきゃとか、とにかく絆だから放射能を気にするなというのが、保守の主張だと思います。
伝統や歴史を大切にするというのが保守の理念ですが、結局西部邁や小林よしのり、籠池氏のような道を歩むか、利権を大事にして国家主義者として権力を握る森喜朗や安倍総理のような人物が関の山です。
もちろん小林秀雄や福田恆存のような、文学や歴史を論じて一流の保守主義者もいます。
疑問もありますが、その見識には傾聴に値する部分もあります。なぜなら、彼らは文学者として並外れた修練をしているからです。
福田恆存のように、戦後の平和主義の理想主義的な部分を鋭く批判した論文もあります。
平和主義を強くするために、論敵として学ぶ部分もあります。
しかし、保守主義とはバークの時からそうですが、フランス革命の殺戮や過激化した部分を憂慮するところから始まります。
確かに進歩主義は優生思想や自然破壊に堕した部分がありますから、わからないではありません。
しかし、保守思想と言っても様々だし、日本やアメリカを見てもわかるように、反共保守が核開発や戦争、原子力発電開発をリードしてしまった。
日本やアメリカの保守主義を見ていて思うんですが、特に日本の保守なんかは、男女平等が行き過ぎだと夫婦別姓にまで反対したり、理想主義的な平和主義を論難しようと核武装まで語ったり、果ては平和主義者が戦争はダメだと言うが、太平洋戦争で日本はよいことをしたと言ってみたり、単なる逆張りが極論化したりしています。
反論のための反論、現状打破と言いながら歴史や自然の保守はおざなりになりやすいようです。
安倍や百田や橋下を準備してしまった部分が大きい。
保守主義を理想視して原発事故以降起きたのは、政党のオール保守化です。
昔なら差別や偏見を正す役目をするはずの知識人や政治家も、現実論に遠慮し、強く戦うことができなくなり、維新や国民ファーストに吸収されています。
保守を理想視しても事態は改善しません。