細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

20170401大阪市立大学医学部にて。原発事故後の健康影響について津田敏秀氏と西美和氏の特別講演傍聴レポート

4月1日、阿倍野大阪市立大医学部にて、大阪小児科学会の特別講演とセミナーに参加しました。
大阪小児科学会のこの講演とセミナーは、医師である小児科学会員と医師ではないが「小児の医療を良くずることに情熱と意見のある人ならば「当日会員」として参加」できるとあり、当日会員として参加費を支払い参加しました。

私は医師ではありません。故に非専門家として記した印象と見解であるとご理解いただきますようお願いします。

参加に際する思いについて。
私は福島原発事故で子どもたちを始めとした被曝影響をきわめて心配しています。また、私は発達障害当事者として、人間の心と身体の発達について強い関心を抱いています。
この2つを当ブログでも考えてきました。

人間は標準から外れる個体差が様々にあります。発達障害はその1つですが、人体の放射線感受性も個体差があります。
故に様々な影響についてきめ細やかな調査と対策が行き届いているか。多発を論文で明らかにした津田敏秀氏と福島県民健康調査の検討委員の西美和氏の議論は是非聞きたかった。
原発事故や避難の中で、大人も子どもも心身の様々な苦労を抱えています。
かつて障害福祉現場で働き、後に社会福祉士有資格者になりました。私は精神、発達障害などから就労しておりませんが、人々が原発事故でどんな支援を求めているか、知りたいとも思いました。実際原発避難者の支援集会などに参加し、皆さんと率直に語り合いこの社会において、原発事故被災者に何ができるか日々問いかけています。

このブログ記事は被曝影響に真摯な議論が喚起されるよう願ったものです。被曝について、まず偽らざる率直な言葉や思いが語られ、それを通じて原発事故被災者の多面的な苦境が医療的社会的に改善されることが私の願いです。

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特別講演、セミナーついての報告と私見

原発事故後の小児甲状腺がんの多発など被ばくによる健康影響評価と100ミリシーベルト問題が議題。
最初は岡山大学の疫学、統計学の専門家津田敏秀氏は、統計学的な分析や議論の大切さを説かれていました。

福島県行政や日本政府には、その理解が欠如し、小児甲状腺ガン多発の深刻さを適切に評価できていないと。
その前提には100ミリシーベルト以下は発がんはないだろうという国際的な科学的な議論ではありえない前提が置かれているからだと説きます。また被ばく量についても、不明な点が多く、その段階で因果関係を推定するには疫学調査が基本。
医薬品の効果や感染症公害病の拡大をいち早く捉えるには、医療的な統計分析が基本。調査結果に基づいて機敏に対策しなければ対策にならないと。
津田敏秀氏はすでに国際環境疫学会で論文を投稿し、国際環境疫学会に属する海外の疫学研究者からは津田論文に大きな疑問は呈されておらず、小児甲状腺がん多発は間違いないと受けとられていると。
特に最近明らかになった県民健康調査での経過観察事例でその後福島医大でガン診断手術が行われたが、県民健康調査にはガン事例として記録されていない問題について、津田教授は深刻だと憂慮されていました。
正確に、経過観察事例を検証したら、さらなる多発がありうると。
多発傾向は明らかであり、チェルノブイリ事故なども考えるなら、この傾向が維持拡大される恐れがある。ならば、数が少ない甲状腺外科医は不足する恐れがあり、近接の耳鼻科医師が甲状腺外科手術技法を習得してサポートにあたることや、汚染の影響がある地域でのガン登録や被ばく者手帳などを整備し、被ばくの影響状況を集計し、被ばくした人々のサポートを早急にやるべきだと実務的な提案をされていました。

次に西美和医師は広島赤十字、原爆病院に勤務していた被ばく医学、甲状腺医学の権威。

西美和氏は津田敏秀氏と正反対で多発ではなく、スクリーニング効果と過剰診断を主張。
しかし被ばくには気をつけてと言うので、論説に矛盾があるように感じました。
多発でないならば、なぜ倍率が1を超えないか、データを提示し解析を行う必要があります。
西美和氏は多発派のデータやデータ解釈を批判していました。しかしではなぜ、多発ではないと解釈するのかの仮説や考察が不足しているように感じました。
「多発ではないと思う」「不安を煽ってはいけない」「過剰診断もあるんじゃないか。でも検査は続けるべき」大人と子供の区別も曖昧なまま「甲状腺がんはよくある病気」「チェルノブイリに比べ被ばくは小さい」など、図表を示してはいるものの、先に結論が決まって展開している印象があり、論証の過程を丁寧に話す必要があるように思いました。
さらには西美和氏は津田敏秀氏からグラフの読み方や使い方の誤りを指摘される場面もありました。参加者として不安になりました。

会場からも西美和氏の講演への疑問が多数述べられましたが西美和氏は同じ結論を繰り返して、論議は深まったようには見えませんでした。
西美和氏は福島県民健康調査の検討委員でありますが、県民の健康を守るための被曝影響の調査で適切な議論がなされているか正直私には不安でした。
会場からの質問で印象的だったのは東神戸診療所の郷地秀夫氏の話。
検討委員である西さんらが過剰診断と言い過ぎることで、検査の現場が萎縮するのではないか。ガン確定には穿刺細胞診が必須だが年々実施率が下がっており危惧していると言う衝撃的な指摘がありました。

事実なら適切丁寧な検査体制を再構築し、また統計漏れも絶対ないように、フォローが不可欠です。

特別講演のあとは、18階で津田敏秀氏を囲んでのセミナーがありました。

阪大の医学生が被ばく問題についてさらに知りたいと内部被ばくデータの所在など質問し、津田氏も丁寧に回答していました。
また、ベテラン医師が統計は難しいが大切さがわかった。会場には若い医師もいて、学んでおり、若い世代が被ばくについて調査研究されることを期待する旨発言がありました。
津田氏のお話は参加する医療関係者に刺激を与えたようでした。

私も発言。私は専門ではありませんが、今日西美和氏の話を聴いていて、医科学の基本的なデータや数値の意味について、不確かな印象で、そのような専門家が検討委員ということで、被ばく影響調査が適切に行われているのか不安を感じた。
データや数値について体系的な理解がなくては、議論が成り立たない。
また、福島県立医科大学が事故当時4歳の子どものがん診断手術事例を県民健康調査へ報告をしていないというのは、本当は被ばく影響は小さくないのではないか、とんでもないと感じた。
このように言いました。

津田敏秀氏は以下のような解答をされました。
福島県民健康調査は、調査研究の目的を正しく理解できていない。
早期発見と因果関係の確定が目的である。
特に県民健康調査は、東京電力への被害賠償請求の基礎資料になりうる。
今回の事件で、事例を正しく報告、カウントしていない問題は、データ捏造、研究不正にあたるのではないかとおもう。
非常に本質的な提起だと思いました。
また、津田氏はいろいろな国や県の学者と議論してきて、多くの医学、科学の専門家が西さんと同じように医学的根拠をどう論証するかについての疫学のルールを理解しているとは言い難いと。
疫学は、目に見えない因果関係をグラフや式を使い見える化するもの。しかし古い世代の医師は、統計学の基礎的な訓練を受けておらず、因果推論が科学的にできない。
であるから、水俣タミフルのような問題が起きる。その時、皆さん方市民がおかしいと気づいたことも、専門家はプライドが高く一番あとから声を上げるが手遅れになり、薬害や公害の被害が拡大する。私はそれを批判してきたが、ヨーロッパで1930年代に議論されてきたことが、今ようやく日本では議論されていると。
手厳しい指摘でしたが、私は西さんと津田さんの議論を生で見て、津田さんのお話はおおむね妥当だと感じました。
また津田さんらの活躍にも関わらず、事態はなかなか好転せず被ばくを受けている人々が適切なケアを受けられずにいるのは、倫理的に大きな問題があると思います。
被ばく影響の現場でも、福島県医大のデータが県民健康調査の結果に反映されていなかったのは大変憂慮すべきことです。

そのこともあり、講演とセミナーに関する私見を報告しました。

故にどうぞわたしの話を鵜呑みにせず、直接津田氏や西氏の研究、県民健康調査の実態をあなたの目でお確かめください。