細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

大阪府市の瓦礫広域処理差し止め裁判の、大阪高裁での控訴棄却について思うこと

 

あらかじめ断わっておきたいのは、私は原告ではなく、原告を支援する会の人間です。

これから書くことは様々な方がこの裁判を知り、理解し考えるための、参考にしていただいてかまいません。

しかし事務局や原告団の方針ではなく、支援する会の石川の個人的な見解です。

 

 

2017年3月9日午前11時から地裁202号法廷で開かれた大阪高裁の控訴審は私が聴き取り理解した限りでは、原告側の敗訴でした。

市民の放射線被ばくへの不安や実害を否定した判決となりました。

詳しくは原告団のブログの判決をご覧ください。

http://blog.goo.ne.jp/stopgareki/e/d7c7132f0faba49091294b1eac0ae8cf

バグフィルターのばいじん捕集性能についても99.9%ではないとする岩見論文は、大阪の舞洲清掃工場の焼却炉と違う場所の焼却炉についてのデータだから今回の件に当てはめられないというのです。ならば99.9パーセントにお墨付きを与えた高岡論文も大阪の舞洲清掃工場とは違う焼却炉のデータですが、、、

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次に埋め立て地の空間線量が長期にわたり、平均的に上昇したとする原告側の統計的分析に関してもいろいろな自然環境の変動の範囲内だというのですが、統計的分析をする際に、誤差を生じせしめる交絡要因を差し引いているのではないかと思うのですが、これは原告側の統計的分析を私が判定する力がないからわからないのです。

ただ、やはり何となく判決には論証の緻密さがなく違和感がありました。

 

しかし一番私が気になりましたのは、1ミリシーベルト以下の被ばくはそんなに問題はないというがごときの判決でした。

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確かにICRP基準では低線量になるほど、あるいは内部被ばくであるほど、平均化され除されて、小さな被ばくになります。

しかしICRPやBEIRでさえ、被害は0ミリシーベルト以上はあると考える「直線しきい値なし仮説」(LNT仮説)を取ります。

 

ICRPサイトの記述を見ます。

〝The report concludes that while existence of a low-dose threshold does not seem to be unlikely for radiation-related cancers of certain tissues, the evidence does not favour the existence of a universal threshold. The LNT hypothesis, combined with an uncertain DDREF for extrapolation from high doses, remains a prudent basis for radiation protection at low doses and low dose rates.〟

http://www.icrp.org/publication.asp?id=ICRP Publication 99

 

ほぼ直訳体にします。

「報告書によると、低線量閾値の存在は、特定の組織の放射線関連癌ではそうではないようであるが、証拠は普遍的な閾値の存在を支持しない。高線量からの外挿のための不確実なDDREFと組み合わされたLNT仮説は、低線量および低線量率での放射線防護のための慎重な基礎のままである。」

 

やはりどう読んでもしきい値はありません。

むろんICRPは社会経済的に合理的な防護基準つまり原子力エネルギーを維持するために、国家や経済の要請からある程度の被ばくを人々に受け入れてもらう基準を取ります。

しかし科学的生物学的にはどんな小さな放射線も細胞や遺伝子を損傷変異させます。

小さな放射線レベルでも、変異を生じせしめるわけです。

放射線感受性が高い細胞にとって致死的なリスクを将来発生させる恐れを高めます。

それは50年以上前から理解されています。

‪RADIATION DOSE EFFECTS IN RELATION TO OBSTETRIC X-RAYS AND CHILDHOOD CANCERS http://thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(70)91782-4/abstract#.WMvobJlTnS8.twitter

〝The excess cancer risk from obstetric X-ray examination was directly related to the fetal dose. It is suggested that this dose-response relationship fits in with a previously published hypothesis that cancers caused in this way are due to the propagation of one cell whose controlling gene had experienced a small but irreversible change at the moment of exposure to X-rays.〟

「産科X線検査の過剰な癌リスクは、胎児の線量と直接関係していた。この用量 - 反応関係は、このようにして引き起こされる癌は、制御遺伝子がX線に曝された瞬間には小さいが不可逆的な変化を経験した1つの細胞の増殖によるものであるという、以前に公表された仮説に適合することが示唆される。」

 

これはつまり、ひとつの細胞が放射線を浴びて変異してしまうと、ガンが起きる原因になるという仮説が1970年のスチュアートニール論文で、示唆されています。

このような事実はICRP勧告に大きな影響を与えている米国科学アカデミーBEIRによって確認され公表されています。

〝There is also compelling support for the linearity view of how cancers form. Studies in radiation biology show that “a single radiation track (resulting in the lowest exposure possible) traversing the nucleus of an appropriate target cell has a low but finite probability of damaging the cell’s DNA.”21 Subsets of this damage, such as ionization “spurs” that can cause multiple damage in a short length of DNA, may be difficult for the cell to repair or may be repaired incorrectly. The committee has concluded that there is no compelling evidence to indicate a dose threshold below which the risk of tumor induction is zero.

The BEIR VII committee concludes that current scientific evidence is consistent with the hypothesis that there is a linear dose-response relationship between exposure to ionizing radiation and the development of radiation-induced solid cancers in humans. The committee further judges it unlikely that a threshold exists for the induction of cancers but notes that the occurrence of radiation-induced cancers at low doses will be small. The committee maintains that other health effects (such as heart disease and stroke) occur at high radiation doses, but additional data must be gathered before an assessment can be made of any possible connection between low doses of radiation and noncancer health effects. 〟

https://www.nap.edu/read/11340/chapter/2#10

「どのようにして癌が形成されるかについての線形性の観点から魅力的な支持もある。

放射線生物学の研究では、「標的細胞の核を横切る単一の放射線軌道(可能な限り最も低い被ばく)が、細胞のDNAを損傷する可能性は低いが有限の確率を有する」ことが示されている。この損傷のサブセット、短い長さのDNAに複数の損傷を引き起こす可能性のある「電離の突出」は、細胞の修復が困難な場合があり、誤って修復される場合がある。委員会は、腫瘍の誘発リスクがゼロになる閾値を示す説得的な証拠はないと結論付けている。

BEIR Ⅶ委員会は、現在の科学的証拠は、電離放射線への暴露とヒトにおける放射線誘発性固形癌の発生との間に線量 - 反応関係があるという仮説と一致すると結論づけている。委員会はさらに、発がんの閾値が存在する可能性は非常に小さいと判断するが、低用量での放射線誘発性がんの発生は少ないと指摘する。

委員会は、高線量ではガン以外の健康影響(心臓病や脳卒中など)が発生するという主張を維持する。しかし低線量の放射線と非がんの健康影響との可能な関連性について評価する前に、追加的なデータの収拾が不可欠である」

 

低線量で、被害がないとは言えないのが今の科学の常識です。内部被ばく、非ガン影響に至ってはまだまだ未解明ですが、チェルノブイリ、原爆などで心配なデータもあります。

例えばブルラコワ

「一方、ロシアの放射線生物学者ブルラコーワは、放射線影響の現れ方について極めて興味深い説を提唱している(23)。彼女の説によると、低線量域と高線量域の被曝では、効果が現れるメカニズムが全く違っており、放射線被曝にともなう「線量―効果」の関係を図示すると、低線量(数一〇ミリシーベルト)でピークを示した後に、いったん減少して、それから再び効果が増加する(詳しくは山本定明氏の本号別稿参照)。つまり、低線量被曝の影響は、中間的な線量での被曝影響より、むしろずっと大きくなると主張している。ブルラコーワの考え方は、汚染地域の子供たちの健康悪化を被曝影響として説明する場合の重要な理論になりうるものであろう。」

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/GN/GN9705.html

ベラルーシ国立科学アカデミーのミハイルマリコ博士やウクライナ放射線医学研究センターのステパノヴァ博士のICRP批判なども示唆的。

ベラルーシウクライナではさまざまな健康被害が少なからぬ専門家によって指摘されている。にもかかわらず、国連や国際放射線防護委員会(ICRP)が事実を認めないのはどのような理由によるのか。

マリコ氏はベラルーシを訪れたICRPの首脳から、「あなた方がどのような推計データを示しても私たちはエビデンスとして認めない」と言われたことを明らかにした。マリコ氏が理由を尋ねたところ、「(旧ソ連では)医学的な登録簿は存在しないとモスクワの保健省で言われたからだ」とICRP首脳は述べたという。
 
 「ベラルーシ旧ソ連内の共和国で唯一、医学的な登録簿を整備していたことをICRP首脳は知らなかった」とマリコ氏は内幕を披露した。」

http://toyokeizai.net/articles/amp/9072?display=b&_event=read-body

裁判所が1ミリシーベルト以下には被害はない

と考えるのは自由なんですが、政治的社会的な都合と距離を取る科学ではそうではありません。

復興のためなら、瓦礫広域処理せねばならず、ならば低線量の影響は辛抱せねばならないかなり強い理由があるとすれば、その理由を示してほしいわけです。

しかし、そのような理由は私は国の復興予算のつけ方や、瓦礫量が当初見込みより非常に小さかったという事実があるため、難しいと思います。

すると、小さな被ばくを我慢させる理由はなくなると私は思いますが。

 

以上が私の個人的な見解です。

 

最高裁に原告の方々が上告あるいは上告受理申し立てをするかは、原告の方々の判断です。

最高裁は厳しい判断をするところですし、みなさん四年間の疲れもあるでしょう。

しかしどのような決意をされるとしても、尊重するつもりです。

これまで戦って来られた原告、弁護団、証人、支援してきた方々にお礼を申し上げます。

ご苦労様でした。