福島原発事故で旧警戒区域で被災した牛の血漿成分に、放射線内部被ばくと正の相関を示す酸化ストレスの兆候が確認。つまり体内は放射線で傷ついている。
東北大学の研究で牛の内部被ばく、長期低線量被ばく影響を示唆するバイオマーカーの変化が観察されました。
このようにバイオマーカーテストによって、被ばくの兆候はわかるのです。
血液などの成分を検査することでわかるし、人間の被ばくの知見もあるわけです。
放射線を浴びた細胞や体細胞成分は、放射線の電離作用によって、酸化し活性酸素を発生させます。
活性酸素は瞬間的な反応で消滅しますが、その時に猛毒を発揮して周辺の細胞などを痛めつけ、細胞の障害や遺伝子破壊を促進します。
生物は放射線以外でも活性酸素が発生します。心理的ストレスや様々な物理的ダメージ(紫外線・有害物質など)です。
それが自然界のものだけでなく、人工放射線源による被ばくが付け加わるなら、細胞や遺伝子の修復プロセスを越えて、ダメージが蓄積し、種々の機能障害をもたらす恐れがあります。
その結果が牛の血漿成分に表れているというのですね。
論文の概要に登場する各酵素・生成物について説明しましょう。
これを見ると放射線が内蔵の細胞を傷つけていることが如実にわかります。
スーパーオキサイドディスムターゼ(superoxide dismutase : SOD)
活性酸素の発生とともにそれを分解する酵素です。つまり放射線の内部被ばくによって活性酸素が増大しているわけです。
ALTはアミノ酸の合成に必要な逸脱酵素です。ALTはAST同様に主に肝臓の細胞が壊れて血液中に出てくるものなので、主に肝機能のチェックとして使用されます。
ALT(GPT/アラニンアミノ基転移酵素) | 検査データの読み方 | 治験ボランティア募集と健康情報発信サイト【生活向上WEB】
ALTが放射線量率と正の相関を示したということは、放射線による被ばく・それによる酸化で、肝細胞がダメージを受けているということです。
MDAは脂質過酸化分解生成物の一つであり、脂質過酸化の主要なマーカーとしてよく用いられます1)。
多価不飽和脂肪酸(PUFA)は活性酸素種/フリーラジカルによる酸化を受けやすく、例えばヒドロキシラジカル (HO・)と容易に反応して脂質ペルオキシラジカル(LOO・)を形成します。この脂質ペルオキシラジカル(LOO・)は、さらに 別の多価不飽和脂肪酸(PUFA)と反応して脂質ヒドロペルオキシド(LOOH)と脂質ペルオキシラジカル(LOO・)を形成します。 また、脂質ペルオキシラジカル(LOO・)は分子内2重結合に反応して環状エンドペルオキシドを形成し、これがさらに分解されて マロンジアルデヒド(malondialdehyde: MDA)が形成されます2)。
MDAは脂肪が活性酸素で参加した際に生成されるものです。つまり脂肪も被ばくしているのです。
体内で糖分がエネルギーに転換されるときにはたらく酵素の一種です。ほとんどあらゆる細胞に含まれていますが、肝臓や腎臓、心筋、骨格筋、赤血球などに特に多く含まれています。したがって、これらの臓器などに異常があって細胞が壊死すると、細胞中のLDHが血液の中へ大量に流れ出します。その量を測定するのがLDHの検査です。
LDHを調べると何がわかるのか?
LDHが含まれている上記の組織に障害が起こると、血液中にLDHが流れ出して高値を示すようになります。特に急性肝炎や肝臓がん、あるいは心筋梗塞のときに著しく増加します。そのほか、慢性肝炎や肝硬変などの肝臓病、腎不全、悪性貧血などの血液病、筋ジストロフィーなどの骨格筋の病気、間質製肺炎、さまざまな臓器のがんなど、多くの病気で血液中に増加するので、これらの病気を発見するスクリーニング(ふるいわけ)検査として用いられています。
LDHが生成しているということは、肝臓や心臓、腎臓などの臓器にダメージが蓄積しているということです。
グルタチオンペルオキシダーゼ(glutathione peroxidase: GPx)は活性中心にセレンを有する酵素で、グルタチオン(GSH)の存在下で 過酸化水素(H2O2)を水に還元するほか、過酸化脂質(LOOH)を還元する機能を有し、 また近年、高齢者(女性)において加齢に伴い全血中のGPx活性が低下することが報告されています。 スーパーオキサイドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼとともに生体内において重要な抗酸化作用を担っていると考えられています。
GPxが低下しているということは、抗酸化機能が低下しているということです。
1日100μ㏉ということは、24で割ると時間当たり4μ㏜以下です。
数値を見ると内部被ばく線量率は、一番小さい値で1.6μ㏜です。
このような低線量で、体内が被ばくで障害されているかの兆候をつかむことができたわけです。
放射線の線量率と細胞障害の発生の相関がわかったことで、今後人間への影響を見ることで、放射線防護、治療が進むことを祈りたいです。
研究や実験だけでなく、臨床にと私は思います。
そうです。人間や生物を具体的に被ばくから救うためにこそこのような知見を活用すべきです。
2016年 | プレスリリース