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細々と彫りつける

Concering poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

【読書随想】憲法に緊急事態条項は必要か・おかしな男 渥美清・第五福竜丸から「3.11」後へ・閉鎖病棟

 

憲法に緊急事態条項は必要か (岩波ブックレット)

憲法に緊急事態条項は必要か (岩波ブックレット)

 

 これは今回の選挙を自民党政権が勝てば、改憲候補ナンバー1といわれる「緊急事態条項」について、災害支援のエキスパートの弁護士永井幸寿氏の好著である。

類書があまりない現在、安価でもあり薄手の本であるにもかかわらず、緊急事態条項の海外の例、緊急事態条項の原理的な欠陥である政府への権限集中も丁寧に批判されている。またこのような条項がなくても緊急時災害時において、日本は災害法令や原子力災害法令あるいは武力攻撃事態法などが存在し、なぜ憲法で緊急事態条項で憲法的に強い権限を政府に与えないかといえば、それは日本国憲法制定当時から、緊急条項が憲法三権分立を逸脱し、政府の暴走により民主体制が破壊される恐れに自覚的であったという金森憲法制定大臣の答弁も引かれている。

また歴史上の緊急事態条項であるワイマール憲法の大統領令、大日本帝国天皇への大権の集中等の悲劇事例も語る。

さらに諸外国が緊急事態条項を置いたのには各国の事情があり、その濫用は問題視され、制御するように各法が整備されつつある現状も語られる。

つまりいかに非常時であれ、無防備に政府の権限が増しても、災害に対応する能力は増さない、なぜなら、災害は普段の自治体や市民の備えとそれが実施できる予算と計画に左右されるからだ。それがわかったのは東日本大震災原発事故であった。

 

つまり緊急時にいくら政府に建言を集中させてもそれは遅いし、自治体や市民の迅速な判断を寧ろ妨害してしまうということなのだ。

その意味で本当は自民党憲法改正が自己目的化し、災害等における迅速効果的な対策に向かっていないということがわかる。津久井進弁護士のネット上の文章とともに災害支援に尽力してきたエキスパートによる必読の書だと思う。

むしろ、企業や自治体、地域組織の関係者、保守層の実務家が読み自民党の暴走を警戒していただきたいと思う。

 

 

おかしな男 渥美清 (新潮文庫)

おかしな男 渥美清 (新潮文庫)

 

 小林信彦による出色の渥美清伝である。偏屈で、敏感で、勉強家で、侠気をもった俳優渥美清が寅さんの孤影の向こうに揺らめいている。

 

第五福竜丸から「3.11」後へ――被爆者大石又七の旅路 (岩波ブックレット)

第五福竜丸から「3.11」後へ――被爆者大石又七の旅路 (岩波ブックレット)

 

 大石さんは被ばく及び核の本質を見抜いている人である。それゆえ、反核運動からも孤立し、そこからひとたびはなれ生活者として過ごし、しかし多くのマグロ漁船の隠された被ばく者が亡くなる中で、無視された被ばく者のために被ばくを伝える活動を続けようと決心した人である。

核も原発も出発点から偽りがある。そのことを歴史の流れに不器用に逆らいながら忘れまいとしてきた人だ。

生活者として、被ばくの生き証人として、私たちは謙虚に彼の言葉や姿に耳を傾けなければならないかもしれない。福島第一原発以降その存在感は増している。

大石さんは核時代の歴史的な構造を体感して語ることができる人だろう。

 

 

閉鎖病棟(新潮文庫)

閉鎖病棟(新潮文庫)

 

 これをもっと早く読めばよかったと思った。

少し内容は古いかもしれないが、精神科医である帚木氏が精神科入院病棟の患者の群像をこれほど深く美しく描いていると思わなかったのだ。

戦争の傷、共同体による精神病者の排除、性暴力、そういう大きな社会の構造と病者の絡み合いの自然な描写がある。

ここにはそれらで傷つき、それでも生きようとする患者の命への思想がある。

思想はそのままドラマとなり、物語を駆動する。

近年の純文学よりもなお、人間理解が正確で、みずみずしい。