【詩作品】信頼のをと
頭に暗い海岸沿いの町のようなものを思い出すと
少し落ち着く
魚釣りは苦手である
防砂林がざわめいている 雨が降りかけて
どうしてか 幸福がわからない のんびりしていたいとか
そっとしてほしいとか
そっとしてほしいのに、私を抱きしめてほしいとか
抱きしめてほしいのに、語り掛けないでほしいとか
語り掛けないでほしいのに、あなたの思いが聞きたいとか
雨が降っているとか
共感なんてものは互いの境遇の類似性にしかないのか
とか
私の過去について詮索しないでほしいとか
詮索しないまま実は知っていてほしいとか
矛盾する願望をそのまま
ここは魚もいないし海も近くないのに
潮の匂いがするんだなあ
だって
私の体には、塩水がいっぱいなんだ
水は言葉を打ちのめす
曖昧な言葉は理解できません
私の頭の中に、500くらいの研究テーマと
1200冊ほどの参考文献が思い浮かぶ
散歩をしながら私は決まった本屋ばかりに向かい
その本屋の階段の隣の本棚で
潮騒を聞いているモードになる
エレベーターであるとか
室内の照明の光が音と
チーキチキチピリン
なんでこんなところにも音があるの
音は私をいつから苦しめているの
あなたの声が聴きたい 聴きたい
声がしたらきっと怖いのに
声がしたらここにひとりでいられなくなる
音と光を感じながら苦しんで
でも苦痛の中に恵みもあり
どうしていいかわからない どうしていいかわからない
気持ちの中に極端な白と黒が
まじりあわない
まじりあうことを願って
別々でありながら
彼方にありながら
それぞれの一人で
世界に溶けあって
味方 味方
波に打ち砕かれない
岩のような信頼