細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

国連科学委員会の報告書は科学的ではないという専門家の告発―放射線被ばくの影響評価の政治的な偏りについて

国連科学委報告書「信頼性低い」 福島事故で専門家


 世界保健機関(WHO)の元スタッフで東フィンランド大のキース・ベイバーストック博士が20日、東京の日本外国特派員協会で記者会見し、東京電力福島第1原発事故の健康への影響について国連科学委員会がまとめた報告書は「信頼性は非常に低い」と批判した。

 ベイバーストック氏は、チェルノブイリ原発事故後の1991年から2003年まで、WHOで放射線防護プログラムを指揮した。

 報告書について、公表の時期が遅い上、不確かなデータで被ばく推計値を算出したにすぎず「国際機関としての責務を果たさず、内容は科学的でない」と述べ、手法に問題があるとの考えを示した。

2014/11/20 20:27 【共同通信
http://www.47news.jp/CN/201411/CN2014112001001775.html

短縮版

元WHO放射線・公衆衛生顧問 キース・ベーヴァ―ストック博士 記者会見資料 http://csrp.jp/?p=1898


重大な主張です。
CRPIAEA、WHOとも連携しているUNSCEARの福島事故報告書をWHOでチェルノブイリ事故の甲状腺がんの大規模発生を調査したベーバーストック氏が徹底批判しています。またUNSCEARは原子力推進国家の強い影響を受けており、中立的ではなく科学的な評価をできていないので組織を解体すべきだと主張しています。
UNSCEARに対するベイバーストックの告発は重大です。
告発は私なりに要約すれば
A・チェルノブイリ事故で政府機関が隠ぺいしたりおかしな情報を流した。ゆえに人々は不安や怒りにかられ政府機関は事態を悪化させた。このような影響は予防できるものだが今回のUNSCEARは同じ間違いをしている。科学的評価ができていない。
B・UNSCEARの報告は3年後に出されたが遅すぎる。これはIAEAの初動対応の遅れと連動している疑いがある。それについての記述は報告書にはない。
C・初期の放射性物質の放出とその影響の評価が事故においては一番難しいが、放射性物質の拡散に関する有効なデータ活用を怠っているため読者に事実が伝わっていない。伝える気がないとしかいいようがない。
D・UNSCEARは国連の中でも原子力推進国家の強い影響を受け資金提供を受けている。報告書作成委員は原子力関連の団体との利益相反があるかというチェックを受けていない。そして原子力に批判的な委員はこの委員会に入っていない。
E・放射能プルームの放出に関する推定値は複数の機関から出されているが、UNSCEARはその中でなぜか日本原子力研究開発機構(旧動燃・旧原研)を採用している。この機関は東電や日本政府といった利害関係機関と距離が取れているか疑問であるし、他の国際グループの推定値の6分の1である。
F・報告書の中で過剰ながん発生が起きるとしているのに、報告書のタイトルは過剰ながん発生は起きないとしている。異常である。
G・UNSCEARのSは科学のSだが以上の理由から、科学的に中立的な機関とは言えず解体すべきである。


最近このような記事がありました。
「鼻血の可能性を否定できないとする意見もある」 朝日新聞上層部の見解と「いちえふ」作者食い違い http://www.j-cast.com/2014/11/19221292..

しかし「低線量被曝によって鼻血が出る可能性は専門家の一致した見解として否定されている」という見解は事実でしょうか。確かにICRPやUNSCEARを参照して作られた教科書にはそういう記述に近いことがかかれているでしょう。しかし国際的に標準的な見解を作っているICRPやUNSCEARにはWHOの専門家から見ても非常に問題があると指摘されています。
それは教科書に載っている標準的な記述が実は科学的ではないかもしれないということです。
これは左翼的見解ではなく、現状の放射線防護体系について様々な識者が指摘する大きな欠陥ですがそれが事実上実効的に世界を制覇しているため現行の放射線防護体系に関する事実からの批判とか様々な証言から推定される放射線の危険に関する情報を流せないように強い統制下におかれているのです。
それについては以前も記事を書きました。
原爆被爆データや記録を読めばわかる被曝についての3つの誤り - 細々と彫りつける (id:ishikawa-kz / @ishikawakz) http://d.hatena.ne.jp/ishikawa-kz/20140430/1398864652

なぜかというと、放射線の危険が現在のリスク評価より大きいとなってしまうと人類社会の原子力や核開発体制が正当化されなくなります。なぜかというと被害が大きすぎるからです。
実際核実験は放射性物質が世界中に拡散するという理由もあって停止されていきました。
またICRPはかつて内部被ばくに関する委員会を持っていましたが、それは突如閉鎖されたことをその委員長であったカールモーガンは証言しています。遺伝学的に影響が懸念されるという事実が無視できなくなると、IAEAはWHOに協定を結ばせWHOがIAEAとは独立に放射線影響を評価する動きを妨げました。
また進展する生物学や種々の被ばくに関する疫学評価が低線量影響を無視できないとする見解を出してくるとそれを取り入れる反面「社会経済的影響を考慮して」という文言を入れて、生物学的な影響を勘案した放射線防護ではなく、主に原子力や国家、企業から見た経済学的影響や既存の統治機関の統治に対する影響を勘案して放射線防護基準を作るように差し向けました。
チェルノブイリ事故では、ウクライナが1990年勧告に従って1ミリシーベルトまで救済の範囲を示す国内法を整備しました。その結果巨額の財政負担をウクライナは強いられました。そのあとICRPは事故後の放射線防護基準を新たに作りました。それを現存被ばく状況といいますが、そこでは参考値が1〜20ミリシーベルトになっています。つまり巨額の財政負担を避けるために基準を緩和したとも見えなくもないのです。
しかしそれだけの影響や被害があるのだから原子力や核開発をやめようとはしないのです。

つまり教科書に標準的に掲載されている放射線影響とその評価はいまだ未知の部分や不足を含んでいます。
科学的にそれに反論する人々との生産的な討論を国際的に標準的な放射線防護基準を作っている機関は避けています。
科学的にさまざまな見解を差別なく検証してなぜ被害や環境汚染影響が起きるか
解明せねばならないはずです。
しかしそれは国際的に標準的な放射線防護機関のドグマティックな態度によって阻止されています。
その基準に反論する自由は事実上ありませんし、ベーバーストック氏のように名も実もある、反体制的ではない研究者が批判してもそれが変わりません。
ですからこれは反体制側にも問題があるという問題ですらありません。
原爆被爆者の中には遠距離や爆発後しばらくして被爆地に入り体調を崩した人がたくさんいます。
かれらはどれくらい被ばくしているかもわからないし、どのように放射性物質が影響したかも検証していないのに、影響がなかったことにされ、公的には原爆症とは認められていない人がたくさんいます。
また水爆実験の折に日本の漁船がたくさん操業していましたがその被ばくデータを日本の厚生労働省は持っていたにもかかわらず50年以上も当事者に開示しませんでした。
また35年間で原発労働者はわずか11名しか被ばくによる疾患を労災認定されていませんが
その詳細を開示したのは2011年です。

政府や国際機関が諸々のデータを出さないしそのデータに基づいた危険性の評価をしていないのですから、それを「科学的」な「統一見解」と信じるほうがこれまでの放射線被害を見た場合難しいと思うのですが右も左もそして自称中立の方々もそういう勉強をしてくださらないために、ますます放射線安全神話は強固になり再稼働さえ行われようとしている。私にはそう見えてなりません。