細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

原発再稼働、原発事故の国民負担の増加、汚染地域への帰還推進と被曝の否定は一連ではないか

良記事です。お時間のある方は是非。

瓦礫よりさらにさらに巨額の東電救済を国民 負担にする計画。 原発は事故を起こしても私たちが負担させられます。だから無責任に彼らは再稼働ができるんです。 被曝して金とられて彼らは企業益や省益を守る。無茶苦茶です。

我々の復興税6523億円を東電支援に"流用" 安倍政権東電救済税金が"人質"

原発再稼働しないと最大9兆円が パー!? 2014年2月19日(水)0時0分配信 週刊朝日

強気発言が目立つ安倍首相

東京都知事選で脱原発を争点にした 細川護熙小泉純一郎の元首相コン ビに圧勝し、高笑いが止まらない安 倍晋三首相(59)。過去最大のジャブジャブ予算を審議中の今国会 でも無敵だ。そんな中、税金で東電の莫大な借金を肩代わりし、原発を再稼働させ、焼け太らせて資金回収 を狙うという驚くべき救済計画がひそかに動きだしていた

集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更を巡り、国会で「最高責任者は私だ」と放言した安倍首相。 これらの問題に隠れ、あまり報じら れていないが、今国会における安倍 自民党の鬼門は、福島第一原発の事 故処理費用の多くを国家予算で肩代わりする東京電力の「救済計画」に ある。
http://s.news.nifty.com/magazine/detail/asahi-20140219-01_1.htm

賠償はどうなるんだとご心配の方もいらっしゃると思います。
しかし賠償をどうするかと、東電が救済されることは別建てで一旦考えないと、電力が延命して、被災者は賠償を最小にするために被曝を認められなくてみたいな最悪のケースも予想されます。

以下のような記事からはそうなる可能性の高さが伺えます。やはり政府や東電の口車にのってはいけないのではないか。
ばんばん避難指示を解除して、事故の原発に近いところへ帰す。しかも住民が「帰りたいが帰れない」と疲れきったところを巧みに国が利用したもので、住民合意を図るものではなく自治を無視した暴挙だと思います。
帰りたい人がいるとしても帰れないと判断している人をも尊重してこそ公平な処遇と言えます。行政として偏ったよろしくない判断です

こうすれば、原発事故を起こしても安全だから、被曝しても知りませんよ、再稼働もできますよ、みたいな意図が背後にないとこんな政治日程ありきのことはできません。
瓦礫でもこの手の強引な説明会手法をよく見ました。

しかし、復興庁、環境省の官僚も「4月1日 解除」を前提に話し始め、最後は赤羽本部長が 「国の判断として」4月1日解除の方針を表明した。冨塚市長も追認する形で3時間に及ぶ会合が終わった。

最初に反対意見を語らせ、中盤に賛成意見が 出たところで帰還派の住民に解除を提案させ、 政府側が「4月解除」の方針を一斉に言い渡す −−。「解除反対」が半数以上とみられる住民た ちは「国の判断」で押し切られた形だ。会合は 当局への不信感という禍根を残すものとなっ た。【藤原章生

<避難解除>「官僚は頭がいいんです」、判断押し切る 福島(毎日新聞) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140224-00000048-mai-soci


政変が起きたウクライナ政府ですら、チェルノブイリ法を作って、子供を保養に出す意義を政府は認めてるんで、そういう前例からみれば、被曝量の評価の多少はあるにせよ、とてつもなく変な気がしますね。

復興庁と環境省の不可解な連繋プレーは以下にも。

この施策パッケージは、原発事故の旧警戒区域の避難解除に向 け、住民の早期帰還を促進しようと、環境省と復興庁がまとめ たもの。地元の住民が「依然として放射線による健康影響等に対する不安を抱えている」として、「国際的な知見や線量粋人 に関する考え方を、分かりやすく伝える」ことが急務だとし て、国が積極的に不安解消策に乗り出す。

同パッケージの取りまとめを行った復興庁の秀田智彦参事官 は、国が表にでると「国の都合の良いように説明している」な どと指摘する声があると紹介。地域にとけ込んでいる地元の方 をリスクコミュニケーション人材として育成したいと述べた。 また、チェルノブイリ原発事故後、EUがベラルーシの一部地域 で実施した「エートス・プロジェクト」などを参考にした、車 座などによる少人数のリスクコミュケーションを強化。「講 義」形式ではなく、講師を囲んでの親密な対応を推進する。地 域には相談拠点を設け、相談員も配置する。

http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1729

エートスという言葉に反応する方々も多いとは思いますが、私はポイントは「被曝」の問題が「不安」の問題に置き換えられているのが問題と思います。

まずリスク評価の違いはあれ放射性物質が爆発でばらまかれて、いまだに放出がとまらないわけですね。そういう「現実」があり、そこにある放射性物質を心配してるわけです。

しかし、その「現実」よりも、個々の被災者の「不安」だけに問題を見いだす。これは公害だけじゃなく心理カウンセリングとかでもよく問題にされる手法です。
例えばAさんの「自殺願望」 があるとして、普通、「自殺願望」を産み出すその人の現実があるわけなんですね。仕事がきついとか、家族が難しい家族だったり。
ならばAさんの「自殺願望」 を単に心理に矮小化できない。「自殺願望」を作り出している彼と彼の背後の現実との関係が問題なんですよね。

放射能汚染の場合は放射能があり、いま、そしてこれから自分や身の回りの人に病気が起きたらどうしようというのは、さっきのAさんのケースより、よりはっきりしています。
現実をどうするか、というときに放射能は人間の不安や気分と関わりなく存在するってことを政府はどう思うのか気になります。実害を意識や不安の問題にすり替えて挙句、それらは「非科学的な見解」だとする。そして「政府が“正しい見解”を教えるが、政府が前面に出ると不信感をもたれるので地元の関係者にリスコミをさせる」非常に姑息な手段ではないでしょうか。こういうことをするから余計に不信感を持たれるのです。そうではなく逆に政府の被害に対する理解と説明こそが不信感を持たれているのです。
しかもそれだけでなく今回は国が表には見えにくい仕組みのようです。
本来原発事故の所管は政府で、事故を起こした施設の所有者は東京電力です。
カウンセリングとか、自助グループには約束やルールをしっかり守るということがあり、責任の所在ははっきりさせたほうがよい。

以下にも同種の問題を感じます。

環境省と福島医大、経済協力開発機構・原子 力機関(OECD/NEA)が都内で開いている集 会「放射線甲状腺がんに関する国際ワーク ショップ」は最終日の23日、県民健康管理調査 で原発事故当時18歳以下の33人に甲状腺がんが 見つかっていることについて「原発事故による 被ばくの影響で甲状腺がんが増えているとは考 えにくい」とする結論を発表した。 集会の終盤に3日間の議論のまとめを行い、
〈1〉県民健康管理調査で甲状腺がんが多く見 つかっている理由は、これまで実施していな かった集団検査を行っているためだろう
〈2〉 同調査はさらに続けるべき
〈3〉甲状腺の被ばく線量をよりきめ細かく評価することが重要だなどの内容を確認した。

原発事故影響「考えにくい」 甲状腺がん国際ワークショップ(福島民友新聞) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140224-00010006-minyu-l07 


要するにみんなが心配してるから検査したが何もなかったといいたいということが先に出てしまっている。
しかも今度は国際的権威やOECDも出てきて、お墨付きを与える。さっきの地元民にエートス活動をさせるというのと真逆の方向性に見えますが、政府のリスクの評価を押し付けるという点では一貫しています。
住民との議論や彼らの被曝状況を丁寧に調べたんだろうか。原爆の原爆被曝認定訴訟はそこを国は指摘されてちゃんとやれと司法から言われてます。原爆症認定の際の基準のおかしさ、ICRPやDS02の被ばく評価の間違い、内部被ばくの適切な評価のできなさ、そういうものが国は指摘されているわけです。原爆と今回の事故では被ばく量がちがうとかそういうことを言う方もおられますが、そもそも住民と連携して、どういう被ばく状況だったかを継続的に丁寧に調査をする気があるのでしょうか。そういう姿勢がないことを原爆症裁判ではことごとく明らかにされてしまったのが国だと思っていたのですが。
そういう先例は無視なんだろうか。

というわけで平成21(行ウ)65 原爆症認定義務付等請求事件  
平成24年03月09日 大阪地方裁判所の判決文です。

局地的に放射性降下物や誘導放射化物質が集積するなどしている場合があり得ることも考慮すると,DS86報告書の調査結果やその後の報告等をもって,内部被曝線量は無視し得る程度のものであると評価することには,なお疑問が残るといわざるを得ない。しかも,被告は,放射線被曝による健
康影響は,内部被曝外部被曝かといった被曝態様で危険性が変わるというものではないと主張しているところ,これを支持する見解もあるが(乙A9,101,142等),他方で,内部被曝については,①ガンマ線の線量は線源からの距離に反比例するから,同一の放射線核種による被曝であっても,外部被曝よりその被曝量は格段に大きくなる,②外部被曝ではほとんど問題とならないアルファ線ベータ線を考慮する必要があり,しかもこれらは飛程距離が短いため,そのエネルギーのほとんど全てが体内に吸収され,核種周辺の体内組織に大きな影響を与える,③人工放射線核種は,放射性ヨウ素なら甲状腺というように,特定の体内部位に濃縮され,集中的な体内被曝が生じる,④放射性核種が体内に沈着すると,体内被曝が長期間継続することになる,などの外部被曝と異なる点があり,一時的な外部被曝よりも身体に大きな影響を与える可能性があると指摘する見解もある(甲A11,45,60,129,143,194,196,234,235等。なお,②のアルファ線及びベータ線の影響については,「原爆放射線の人体研究1992」においても,「この(体内へ摂取された放射能が内臓諸器官を直接照射する)場合は,ガンマー線以外にベーター線やアルファー線も影響している。とくに爆発直後のもうもうたるチリの中にいた者をはじめとして,後日死体や建築物の残骸処理などで入市して多量のチリを吸収した者は,国際放射線防護委員会が職業被爆者について勧告している最大許容負荷量以上の放射能を体内に蓄積した可能性がある。」とされている(乙A102・7頁)。)。そして,確かに,内部被曝における機序の違いについてはいまだ必ずしも科学的に解明,実証されておらず,現状においては,上記の見解が科学的知見として確立しているとは言い難いとはいえ,放射性物質が体内にあるか体外にあるかによってその身体に与える影響に大きな差異があるという見解には,被告が主張する被曝態様により危険性が変わるものではないとする見解に比して相当の説得力があるように思われる
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121107150259.pdf

国のICRPやDSによる線量推定も外部被ばくにおいては合理性がないわけではないが、体内に放射性物質が入ってしまう場合には、国が云うのと違って、被ばく形態の差によって被害に大きく違いが出るんじゃないかといっていますね。

後述するとおり,入市被爆者等に放射線被曝による急性症状とみられる症状が一定割合生じている旨の調査結果があり,推定される外部被曝線量だけでは必ずしもこれを十分に説明し得ないこと,前述のP7らの調査報告に「広島でしきりに『ガス』を呑んだものは原子症がひどいというが,この『ガス』はおそらく高放射能を持つ有害物質を含む黒塵の立ったものを指すと思われる。」といった記載があること等に鑑みれば,原爆による内部被曝線量は無視し得る程度のものであるとしてこれを考慮しない方針には,疑問がある
といわざるを得ない。したがって,前述したとおり被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆発後に生じた症状等に鑑み,誘導放射化物質及び放射性降下物を体内に取り込んだことによる内部被曝の可能性がないかどうかを十分に考慮する必要があるというべきであり,加えて,内部被曝による身体への影響には,一時的な外部被曝とは異なる性質があり得ることを念頭に置く必要があるというべきである
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121107150259.pdf

もっとも,人間の身体に疾病等が生じた場合に,その発症に至る過程においては,多くの要因が複合的に関連していることが通常であって,特定の要因から当該疾病等の発症に至った機序を逐一解明することは自ずから困難が伴うものであり,殊に,放射線による後障害は,放射線に起因することによって特異な症状を呈するものではなく,その症状は放射線に起因しない場合と同様であり,また,放射線が人体に影響を与える機序は,科学的にその詳細が解明されているものではなく,長年月にわたる調査にもかかわらず,放射線と疾病等との関係についての知見は,統計学的,疫学的解析による有意性の確認など,限られたものにとどまっており,これらの科学的知見にも一定の限界が存するのであるから,科学的根拠の存在を余りに厳密に求めることは,被爆者の救済を目的とする被爆者援護法の趣旨に沿わないというべきである。
したがって,放射線起因性の判断にあたっては,当該疾病等が発症するに至った医学的,病理学的機序を直接証明することを求めるのではなく,当該被爆者の原爆による放射線被曝の程度と,統計学的・疫学的知見等に基づく申請疾病等と放射線被曝の関連性の有無及び程度とを中心的な考慮要素としつつ,これに当該疾病等の具体的症状やその症状の推移,その他の疾病に係る病歴(既往歴),当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度等を総合的に考慮して,原爆放射線被曝の事実が当該申請に係る疾病等の発症又は治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを経験則
に照らして判断するのが相当である。そして,当該被爆者の原爆による放射線被曝の程度を考慮するに当たっては,前記2で述べたとおり,DS02及びDS86報告書第6章等により算定される被曝線量は,あくまでも一応の目安とするにとどめるのが相当であり,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に鑑み,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性がないかどうかを十分に考慮する必要があるというべきである
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121107150259.pdf

原爆被爆者に、つまりは被害者に被ばくとの因果関係の証明を求めるのは、被曝に対する研究の科学的な知見が限られていることからも被爆者の救済にとっても酷なのではないかと書かれています。
福島の事故だって逃げるのにやっとだったり何が何だかわからないうちに外で給水された水を飲んだり、知らないままに放射能雲の下にいたら相当被曝してしまう。そういうことをいちいち線量計で測る手段すらなかったのですから、推定線量は推定として、その人の被ばく状況とその人の症状から総合的に判断するべきと思います。
で、そういうデータを国がきっちり取って、それらを国際的な学者に伝えているかといえば県民健康管理調査の返答率の低さから考えてもできていないのだから被ばくとの関連を否定することはできない気がしますね。

甲状腺ガンについて私は詳しくありませんが、エコーはしてもらったことがあります。
画像もプリントアウトしていただきました。
私の知識なんてものは不確かですが、被曝との関連をばっさり否定する蛮勇に驚くばかりです。



下の記事を読んでみてください。


菅谷:甲状腺の状態を超音波検査しながら説明す るのは、そんなに手間のかかることではありませ ん。画面を見ながら嚢胞や結節の大きさや数など を説明してあげれば保護者の不安も少なくなるで しょう。

確かに36万人の子どもを2年半で検査するので すから、これは大変な作業です。もし、検査や丁 寧な説明をするためのマンパワーが足りないん だったら、できれば日本全国の甲状腺の専門医に 福島へ行ってもす。チェルノ ブイリ事故当時はソ連というある種の独裁国家 だったということもありますが、原発事故を受け て非常事態省という役所ができて医師たちは半強 制的に現地に行かされました。申し訳ないけれど も、日本も全国の甲状腺の専門医たちに福島に 行っていただき、それぞれが検査して保護者に丁 寧に説明すれば、多くの人が早く安心できたので はないかと思います。

http://www.windfarm.co.jp/blog/blog_kaze/post-12865

菅谷昭さんは今は長野県の松本市で市長をされていますが、信州大学の医師でチェルノブイリ原発事故のあとのベラルーシ甲状腺治療にたずさわったスペシャリストです。
私の体験からもきちんとした説明があれば、怖くない検査です。医療というのはデリケートな分野ですからね。とにかく「大丈夫」といえば、患者が安心するわけではないというのは今時のインフォームドコンセントをうけた医者にはわかるはずなんですが。当たり前なんです。事実をきちんと提示して一緒に考える姿勢のない医者は今なら訴えられても無理はありません。
岩波新書の日野行介の「福島県民健康管理調査の闇」なんか読むと、専門家が先に発表するための結論を作ったりしてしまっている。また患者個々への丁寧な情報開示がない。
世界から学者を呼ぶ前にできることがあるんじゃないか。
とにかく評価の前に必要な情報を市民皆さんへ出すしかないんじゃないでしょうか。

そういうことは被曝云々以前の問題と私は思いますね。

ちなみに菅谷昭さんがベラルーシの研究者と書いた報告です。術後のケアや被曝との関連に関する慎重な記述があり他山の石としたいと感じましたね。
権威とかじゃなく事実にあたり、丁寧にわかりやすく報告すればあんまりもめないと思うんです。
そうできないのは、日本政府がとにかく権威と圧力で進めているからだと私は感じます。こういうのはとにかくお互いの信頼関係を阻害します。福島医大を退いたはずの山下先生が相も変わらず出てくるあたり反省がないのでは?と思います。

次に,ベラルーシ共和国における小児甲 状腺ガンの発生頻度についてみると,事 故前は小児10万人あたり年間0.1件と,世 界のそれとほぼ類似の値を示していた. しかし,90年1.2件,92年2.8件,94年3.5件,95年4.0件,96年3.8件 と明らかに上昇していることが判明し た.そこで,これらの年度別発生頻度 を,高汚染州であるゴメリ州に限定して みる と,90年3.6件,91年11.3件,95年13.4件,96年12.0件 と,91年以降は世界的平均の100倍以上に も達している.またブレスト州で も,96年は7.3件であった.これは極めて 異常な事態と言わざるを得ない.一方, 非常に軽度の汚染州であるビテプスク州 では93年以降0件のままである.

ここに示した幾つかの臨床科学的データ は,ベラルーシ共和国で急増する小児甲 状腺ガンが,チェルノブイリ原発事故に よる放射能汚染によって誘発された可能 性を強く示唆している 2 .なかでも,事故 によって大量に放出された,ヨウ 素131(半減期8日)などの放射性ヨウ素 による甲状腺被曝が最大の要因であろ う.甲状腺では,ヨウ素を原料として甲 状腺ホルモンの合成が行われるため,体 内に摂取された放射性ヨウ素のほとんど すべては甲状腺に集まる.甲状腺に取り 込まれた放射性ヨウ素による,局所的で 集中的な事故当時の内部被曝の結果が, 現在甲状腺ガンとなって現われていると 考えるのが最も論理的である 3,4 .事故後 に生まれ,ヨウ素被曝を受けていない子 供たちに甲状腺ガンがほとんど認められ ていないことも,強力にこのことを裏付 けている.しかし,発ガンのメカニズム に関する直接的な証明は現時点では極め て困難であり,またガン発生と被曝量と の関連性についても今なお明確な結論が 得られておらず,今後も詳細な基礎的検 討が継続されるべきであろう.

ここで,最近の甲状腺ガン症例数の推移 をみると,1995年に当ガンセンターで外 科治療を受けた小児(15歳未満)は91例 であり,96年は84例,97年は5月末まで に27例と,漸次その数が減少する傾向に ある.一方,93年頃より,15歳を超えた 青年層の甲状腺ガン患者が増加してきて いる.具体的な数字を示す と,90年4例,91,92年はいずれも1例, しかし,93年になる と25例,94年21例,95年25例,96年 は10月末までに26例に手術が施行されて いる.つまり,事故当時に子供であった 人々の年齢増加とともに,甲状腺ガン患 者の年齢も上昇する傾向が認められてい る.また,これら10代後半の患者におい ても,小児の場合と同様に,明らかな地 理的特徴,すなわち,高汚染州であるゴ メリ州とブレスト州出身の患者が全体 の70%を占めていることが明らかとなっ た.

今後は,これまで小児甲状腺ガンとして 現われてきた事故影響が,10代後半,さ らには大人の甲状腺ガンへと移行するで あろうと推測される. 今後の問題点

若年齢の小児期に既に外科治療を受けた 患者たちが,現在,思春期や青年期を迎 えており,彼ら,ことに女の子たちは, 間近に迫った結婚や妊娠,出産,そして 生まれてくる子どもへの遺伝的影響など に大きな不安を募らせている.なかに は,結婚や出産を回避しようとしている 若年女子も見られている.

このようにチェルノブイリ事故による健 康障害への影響は,今まさに始まったば かりである.今後,成長期にある小児の みならず彼らの親たちに対する臨床およ び社会心理学的ケアーの重要性がクロー ズアップされてくるものと考えられる. 医療支援の取り組みの一環として,この 方面からの教育的アプローチも考慮され る必要があろう.

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/saigai/Sgny-J.html