細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

ゲノム不安定性など新たな生物学の研究を考えた放射能被ばく防護を。

ICRPを批判する矢ヶ崎克馬先生の議論です。

しかし、内部被曝の場合は事情が一変します.飛程の短いアルファ線とベータ
線は身体の中で止まってしまうので、持っている全てのエネルギーが細胞組織
原子のイオン化等に費やされます。
http://www.cadu-jp.org/data/yagasaki-file01.pdf

図4は、はアルファ線の飛ぶ״離と細胞の大きさのイメージ化です。細胞核
はDNAが詰まっています。α線細胞核をヒットした場合、DNAにݗ密度
被曝・イオン化を与えます。DNAが過って再結合して、もしそれが増殖等の
活動を開始したらがんや腫瘍の発生と結びつきます。

http://www.cadu-jp.org/data/yagasaki-file01.pdf

放射性物質内部被曝はより多く強く局所的に細胞の集団がダメージを受けてしまうといっています。

次にICRPの専門家です。

放射線防護における低線量放射線研究の位置づけ−現状と将来−」

ICRP第1専門委員会委員長
ロジャー コックス


講演を行うコックス博士
このような状況において、低線量放射線による少数のDNA損傷の追加を無視できるのだろうか?
内因によるDNA損傷は孤立して発生するため修復されやすい。しかし、放射線は局所的に集中した損傷を起こしうる。このような傷の集団(クラスター)は修復されにくいために後に残ることになる。放射線は少量でもこのようなタイプのDNA損傷を生じるため、発がんの影響を無視することはできないであろう。
また分子細胞レベルの研究が進むと、放射線を受けた細胞だけではなくその近傍にある細胞が連動して応答する現象(バイスタンダー効果)や、放射線を受けてかなりの時間を経過した後に遺伝子の異常が増える現象(遺伝的不安定性)と、発がんとの関わりが注目されてきた。これらの現象が発がんリスクにどの程度関与するかまだよくわかっていない。
細胞に生じるストレスに対する防護機構としては、生体に有害な活性酸素を消去する抗酸化機能、回復が難しいダメージを受けた細胞が自発的に死んでいく作用(アポトーシス)、あるいは前がん細胞の増加を監視する免疫機構などがある。がん化機構の研究は、放射線影響研究とは関係ない分野で急展開している。この分野の研究成果をとりいれて放射線発がん機構の解明をすることが大事である。現在、各種の遺伝子を人工的に欠損させた特殊なマウス(ノックアウトマウス)が多種多様につくられている。これらの中から放射線発がんに関連すると思われるノックアウトマウスを選別して注意深い計画で実験をすれば、放射線発がんの機構は画期的に進歩することが期待される。
http://www.denken.or.jp/jp/ldrc/information/event/symposium/symposium2002.html

「しかし、放射線は局所的に集中した損傷を起こしうる。このような傷の集団(クラスター)は修復されにくいために後に残ることになる。放射線は少量でもこのようなタイプのDNA損傷を生じるため、発がんの影響を無視することはできないであろう。」
つまり放射線による電離作用はDNAの「傷の集団」を作るといっていますね。
これは矢ヶ崎先生の理論とほぼ同じです。集中した電離、イオン化によって、DNAは強力に破壊、変性されていきます。そういう理論自体はICRPもそうでない派もそっくりなんです。

さらに飛程が短いがエネルギーの密度が大きく遮蔽のない体内で進む被ばく影響はさらに大きいのは、常識的に考えて当然といえましょう。
ICRPγ線に比べアルファ線には20倍の影響があると想定する所以です。

じゃあどちらがおかしいのか?
まあそれはひとまず置いておきまして次の議論にうつりましょう。

コックス先生や生物の被ばく影響の専門家(野村大成さん、矢ヶ崎さんなど)が心配しているのはエネルギーの量だけではありません。放射線が思わぬ副次的な効果を与えてしまうということなんです。

DNAの傷で細胞が死ぬならその細胞は除外されるだけなんですが、遺伝子に備わっているアポトーシス機能が変異してしまったり、がん抑制遺伝子が異常をきたしたり、遺伝情報の様々な情報が異常な結合により様々な変異を起こすと、DNAが傷ついた細胞がたくさん生き延びてしまう。そういうことが大人でも子供でも起こる。それぞれの細胞の分裂周期によって変異リスクはずいぶん違いますし、体の大きさ、個々人の体質、体調によって放射性物質の体内残存や半減期も違います。また放射性物質セシウム137などは体内での動きがカリウム40とはちがうようです。

さらに困ったことにICRPのコックス先生が言うように、ゲノム不安定性といって、遺伝子に被ばくの記憶がとどまり、忘れたころにそれが発現するケースや、被曝した遺伝子と被曝していない遺伝子が何らかの体内の伝達回路を介して、被曝情報を伝え、被曝していない細胞も被ばくした影響を受けてしまうことがわかっています。
さらに細胞のどの部分が障害されると何が起きるかということまで実験証明可能なところまで生物学は来ています。
(これらは長山淳哉『胎児と乳児の内部被ばく』緑風出版に詳しいです)

さらにエピジェネティクスといって遺伝子自体ではなく遺伝子の情報が発現プロセスが重要なことがわかってきました。成長や老化、体内のホメオスタシスが維持されています。
そういう過程が被ばくによるイオン化、活性酸素の影響を受けたらどうなるのでしょう。
(綿貫礼子さんの本に詳しいです)


ゲノム不安定性の図解、画像については大阪府立大学のPDF http://www.riast.osakafu-u.ac.jp/~housya6/study/study1.pdfを発見しました。
わかりやすいのでご覧ください。



人間の体内で起きていることはたいへん不思議です。
物質と生命の神秘を侮ると痛い目にあうかもしれません。