細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

放射能被ばくを考えるためのブックガイド私家版

黒い雨 (新潮文庫)

黒い雨 (新潮文庫)

実在の人物の原爆被ばくの手記に相当によっているだけに、被ばく時の広島市内の状況、放射線の内部及び外部被ばくの症状のあらわれ方、心の揺れが恐ろしくリアルである。はだしのゲンとは違う形での写実的な説得力がある。井伏が剽窃ととらえられる恐れを持ちながら、あえてこれを小説にしたのはなぜか文学史的な謎もあわせて考えるとよいだろう。

終りのない惨劇

終りのない惨劇

  • 作者: ミシェル・フェルネクス,ソランジュ・フェルネクス,ロザリー・バーテル,竹内雅文
  • 出版社/メーカー: 緑風出版
  • 発売日: 2012/03/17
  • メディア: 単行本
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国際原子力機関IAEA原子力推進のために、国際保健機関WHOに放射線被ばくによる調査研究に圧力をかけたという告発が書かれている。訳文はあまりよくないが、国連放射線被ばく影響において国連人権理事会などのように明白な人権侵害として捉える機関と、IAEAやUNSCEARのように放射線被ばくのリスクのある産業を保護するためにあえて人権侵害につながる汚染被害を軽視する機関に二極化している事実は知っておいたほうがいい。
放射能汚染が未来世代に及ぼすもの: 「科学」を問い、脱原発の思想を紡ぐ

放射能汚染が未来世代に及ぼすもの: 「科学」を問い、脱原発の思想を紡ぐ

  • 作者: 綿貫 礼子,吉田由布子 二神淑子 リュドミラ・サァキャン
  • 出版社/メーカー: 新評論
  • 発売日: 2012/03/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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チェルノブイリ被災三国の科学者や医学者と、UNSCEARやIAEAのような国際機関が放射能汚染の環境影響や人体影響をめぐって激烈な論戦を繰り広げていて、実はチェルノブイリ事故の被害の全貌は全く明らかではないことが生々しくわかる本。放射線によるリプロダクトヘルス(子どもを作るための心身の健康)を強く脅かしている可能性に言及するフェミニズムの書でもある。著者は放射線が遺伝子の発現(エピジェネティクス)に影響を与えることによって、心身の健やかな発達や病気からの身体の防御能力が阻害される懸念を示している。科学史家の中山茂氏に師事した科学者である。残念ながら福島の原発事故以降亡くなっている。
見て見ぬふりをする社会

見て見ぬふりをする社会

この本は直接放射能の被ばくについて扱っていないが、偉大なる放射線及び癌の疫学研究者であるアリス・スチュアートの伝記が書かれている。アリススチュアートは、1950年代の古典的な質問紙調査によって、妊婦がエックス線検査を受けた場合、生まれた子供がのちに白血病になるリスクが高まることを突き止めた。それが10ミリシーベルトだったため、低線量影響を確証するデータとなる。医療放射線業界はそれでも放射線の妊婦への使用をやめなかったが、スチュアートの発見から20年以上議論され追試もスチュアートのデータの確かさを確認し、妊婦への放射線利用を世界的に慎重にする根拠になった。ICRPも参考にする米国科学アカデミーBEIRⅦの一般向け概要でも古典的な低線量被ばくデータとして記述されている。スチュアートは小児がん調査の後も、放射線による被ばくリスクを研究し、ECRRの創設にかかわる。
福島原発事故 県民健康管理調査の闇 (岩波新書)

福島原発事故 県民健康管理調査の闇 (岩波新書)

最大の放射能汚染地帯を持つ福島県において、極めて不透明な健康調査が行われたことを取材し跡付けた本。日本ではあまり顧みられないアメリカの核兵器開発施設ハンフォードやソ連の核実験が行われたセミパラチンスク、劣化ウラン弾による被ばく影響が疑われるイラク、インドのウラン鉱山の周辺、ビキニ環礁の核実験が行われたロン下ラップ島の放射能汚染地帯を、森住氏が取材し撮影したもの。因果関係がどうのという前に住民がきちんと検査されていない、被害の補償はしてもらえないということが世界中で起きている。そういうことをまず知るべきである。世界的な核汚染の実情を知ることができる。
チェルノブイリ報告 (岩波新書)

チェルノブイリ報告 (岩波新書)

チェルノブイリ事故の影響を継続的に取材しまとめた本。
私のブログでも触れました。広河隆一『チェルノブイリ報告』より、被害の歴史を今噛み締める意味 - 細々と彫りつける

医学と仮説――原因と結果の科学を考える (岩波科学ライブラリー)

医学と仮説――原因と結果の科学を考える (岩波科学ライブラリー)

科学哲学的には批判が出ているが、公害において福島も例外なく、因果関係の証明に時間が空費されるということを痛感する本。初期に定量的なデータを示すことが困難だからこそ被害状況を最大限調査し被害者を早期に救済することが大切だと思える本。

原発に「ふるさと」を奪われて?福島県飯舘村・酪農家の叫び

原発に「ふるさと」を奪われて?福島県飯舘村・酪農家の叫び

福島の事故の後、どれだけ被害者の声が封殺されリスク情報が被害者に届けられなかったをはっきり示す証言。向き合うべきである。

チェルノブイリの祈り――未来の物語 (岩波現代文庫)

チェルノブイリの祈り――未来の物語 (岩波現代文庫)

チェルノブイリ被災者の証言集。

低線量・内部被曝の危険性―その医学的根拠

低線量・内部被曝の危険性―その医学的根拠

医学的統計的なデータを集めたもの。危険性を煽る本ではなくエビデンスベースの本。記述もわかりやすい。

原発労働記 (講談社文庫)

原発労働記 (講談社文庫)

原発労働が被ばく労働であること、どんな被ばく管理が行われているか
はっきりわかる。『自動車絶望工場』に匹敵する労働体験潜入取材の古典的名著。私は小学校の終わりくらいに読んで震撼され原発は恐ろしいとはっきり知った本である。
原題は『原発ジプシー』差別的なので変更されたのだろうか。

これが原発だ―カメラがとらえた被曝者 (岩波ジュニア新書)

これが原発だ―カメラがとらえた被曝者 (岩波ジュニア新書)

原発の構内への潜入取材の前に四日市公害の取材の様子が描かれている。
核燃料輸送車の追跡取材もある。読まないと損。