細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

2月20日、大阪市震災廃棄物処理の即時中止を求める3名の学識経験者の記者会見


(写真右から大和田幸嗣氏、石田紀郎氏、畑明郎氏)

 本日2月20日、大阪市に対し「震災廃棄物処理の即時中止」を求める要望書が提出された。要望書の呼びかけ人は元京都大学大学院教授で、市民環境研究所代表の石田紀郎氏。賛同者は環境や医療を専門とする学識経験者、ジャーナリスト、国会議員、文化人、宗教者、奈良県兵庫県大阪府下の市会議員74名から構成される。
 大阪市に要望書を提出後、中央公会堂第二会議室で記者会見が開かれた。呼びかけ人の石田紀郎氏のほか、賛同者で土壌汚染問題に精通する滋賀環境問題研究所所長で元大阪市立大学大学院教授の畑明郎氏、分子細胞生物学が専門で、元京都薬科大学教授の大和田幸嗣氏ら三名が震災がれき広域処理の問題点と、大阪市での処理の中止を訴えた。
 石田氏はまず、関西では大阪市だけが処理を始めてしまっている不可解さを訴えた。汚染物質は拡散させないという原則から逸脱していることやさらに氏が専門とした農薬などの化学物質とちがい、放射能が環境中での分解が困難な厄介な汚染物質であると指摘した。京都が受け入れを撤回したのも、形の上では相手から断っているということになっているが、どの行政関係者であっても放射能の拡散がいけないことは理解しており、政府が広域処理を選択したことや大阪が受け入れを選んだことに大きな疑問を感じると述べた。

 畑氏は富山のカドミウムの土壌汚染を調査した経験から、汚染土壌は他所にもっていけず深く掘って現地で埋めねばならなかったことを語った。今回の事故ではカドミウム汚染とは比べ物にならない面積が放射能汚染されており、土壌を無理に剥ぎ取るよりも自然減衰を待ち、瓦礫の移動や除染にコストをかけず、住民を退避させることが基本ではないかと述べた。また関東や東北に広域に放射性物質が降下していることはデータ上から自明のことであり、大阪が瓦礫を引き受けるのは合理的ではない、さらに遠くて批判された北九州も三月で受入れを中止するのに、西日本では大阪が唯一の受け入れ自治体になると述べた。それは大阪市長や府知事の政治的なパフォーマンスや利権の関与を疑うほどであると述べた。また、放射性セシウムは水溶性のアルカリ金属であり、埋立地大阪市北港の夢洲は大阪湾に接しており、長期に安全に管理することは困難であると批判した。
 大和田氏はベラルーシの病理学者バンダジェフスキー氏の説を紹介しながら、外部被ばくと内部被ばくでは生体への作用機序がまるでちがうのに、原子力推進の団体はいずれも同じものとして扱っていることを批判した。ベラルーシではセシウムの蓄積によって癌以外にも心筋梗塞、高血圧、免疫疾患など多様な疾患があらわれているデータを紹介し、放射能は再生率の低い心筋細胞や増殖の激しい子供の細胞に影響を与える、したがって汚染物質を拡散することは命への冒涜ではないかと述べた。

 その後質疑応答に移り、他の記者から「大阪府・市の専門家会議では、先生方と同じような専門家が安全だといっているが違う見解なのか」という質問があり、畑明郎氏はそもそも事故前は100㏃以上は特別な管理が必要だったはずで、さらにキロ100㏃という汚染は大阪では見当たらないものだと指摘した。「大阪府市のデータでは極めて低い数値であるが」と質問されると放射能汚染のサンプル検査は濃度のばらつきが大きいと指摘した。また大和田氏は、焼却炉は高温で様々な化学反応が起き、1万近い化学物質が生成されると指摘、さらに他の化学物質と放射性物質が相乗し染色体を傷つけるリスクは上がるというデータが欧米で出ていると指摘した。
 筆者はフリーの取材者として、先生方に次のような疑問をぶつけてみた。「大阪市などの行政に、事故前は廃棄物処理法で放射能が処理できなかったと聞くと特措法があるから独自基準を作ったからという。大丈夫なのかと聞くと、低いものしか持ってこないという。であるならば、基準を2000㏃などに緩和する必要はない。特に大阪は汚染が低いので、そういう基準を作ったり特措法を適用する意味が分からない。どういう理由が考えられるか」と。
 すると、畑氏が答えた。環境法体系にはそもそも放射能は対象になっていない。なぜなら放射能の環境汚染は想定外だった。福島で高い汚染が出てきて困ったから放射能汚染特措法を作った。しかし環境法体系において、放射性物質はそもそも適用を除外されており、それを再検討しないで、特措法をつくって既成事実を積み重ねていくというやり方は原則的にはよくない。本来、他の(土壌や大気、水などの)環境法と整合させながら、慎重に処理を考えねばならなかった。高い汚染が出たから、追認的に特措法で対応したことが問題。国会できちんと審議すべきだった。さらにガレキは様々な廃材や物質が含まれており、一廃ではなく産廃として処理すべきものではないかと述べた。

 遅ればせながら、環境省は環境法関連の見直しを行っている。しかし特措法で力技的に全国処理しようとしたことは問題であり、なるべく現地で防潮堤などにしてなるべく燃やさずに処理してほしいと語った。
 
 他にも重要な指摘は続いたが、今日は以上報告させてもらいます。適宜、記者会見で記憶にとまったことを改めて後日書きたいと思います。
石田氏は「落し物は落とした人の責任」と東電にまず一義的な放射能汚染の責任があると指摘。私の「がれきなどの処理で健康影響や環境汚染が出た場合を懸念する人々が多い。そのときどう対処すればいいか」という質問に石田氏は「とにかく処理は予防原則で早く止めないといけない」といった言葉が印象に残りました。「それを行政に一番求めますか」と問うとうなづいておられました。どの先生方も公害について深い経験と洞察をお持ちで、一言一言が大変重要な指摘だったと感じた記者会見でした。
(続く)