細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

公害摘発最前線がすごい。

 ブックオフが新春2割引きなので古本を買ってきました。斉藤和義の45STONESというアルバムも買ってきました。

 その中に約30〜40年前に公害の取り締まり・規制の最前線で働いていた田尻宗昭氏の『公害摘発最前線』という本があります。ずいぶん前の本ですが、瓦礫問題でも同じで「安全です」「薄めれば大丈夫」という論調や企業や行政が巧妙に規制をすり抜け、企業に都合の良いザル法を作るところも同じです。
 住友金属や今も存在する企業が出てきます。まだ全部読んでいないのですがあまりにもすごいので、ネットで検索した情報をメモ代わりに載せておきます。皆さんよむとよいでしょう。昔も今も何も変わっていないのですよ。
 

海上保安庁に入り、四日市海上保安部警備救難課長などをへて退職後、東京都公害局規制部長などを歴任。公害Gメンとして企業の工場排水垂れ流し事件を摘発、環境破壊としてはじめて刑事責任を追及した。環境破壊や労働災害運動と交流しながら、異色の役人として現場からの摘発にあたった。
 商船学校を卒業し、海上保安官になり、海一筋で生きて来たが、海上保安官時代から異色であり、海上保安庁を退職したのをきっかけに、美濃部知事が、革新都政の公害摘発に力を発揮してもらおうと、東京都入りを要請した結果、海から陸に上がる人生に切り替えたのだ。
 私は、職場ばかりでなく、私事でも、田尻さんと馬があったのか、勤務後の田尻さんとも会い、良く話を聞きに行った。肝心の6価クロム鉱滓関連の取材ばかりでなく、海上保安官時代の話も、良く聞いた。保安官時代では、九州と韓国の間の公海上に設定された「李(承晩)ライン」(1952年〜65年、日韓間の公海上に、当時の韓国李承晩大統領が、一方的に軍事境界線を引き、そのラインを越えて操業する日本漁船を拿捕していた)で、日本漁船が、拿捕されないように警備した頃の話は、海の男らしい田尻さんの面目躍如の、お得意な話であった。そして、三重県四日市港での、複数の公害企業による工場廃液の垂れ流し事件の刑事告発の話なども、微に入り細に入り聞いた記憶がある。海上保安官たちが、高校の化学の教科書を片手に、硫酸などの初歩的な知識を学びながら、もう片手に、法律書を持って、取り締まるべき法律を港則法と定めるなど、苦労したことなど。田尻さんは、独特の、まさに、田尻節と言うべき語り口調で、話されるから、話に躍動感が籠り、同じ話を聞いていても、飽きなかった。
大原雄http://bungeikan.org/domestic/detail/859/

 海上保安官が一から法律と化学を勉強をして廃液の海洋汚染を取り締まっていたのですね。誰でも一からやっていたし、新しい問題というのは必ず、法の隙間で起きます。その隙間は企業や行政が抜け道として開けたものです。

 例えば今でも瓦礫焼却は「濃度規制」です。濃度規制はキロやリッターあたり、有害物質が何PPMあるいは何グラムというものです。これだと水や空気だと薄めればクリアしてしまいます。なので年間にこれだけ以上だしたらアウトという総量規制ができたのです。
 放射能にも一応規制とか目標値があります。なので、本当は放射能が何ベクレル以上出たら様々な法律に東京電力はひっかかっているのです。それを取り締まりにくいように原子炉や放射能の法律は穴が設けられています。その穴を利用する形で全国で放射能汚染物を焼いて埋めれる特措法を作りました。これをする目的で、瓦礫を利用しました。
 本来は総量規制から考えれば東京電力の責任は疑えません。また規制監督庁の経産省内閣府の責任は重大です。しかし従来の環境法が放射能を適用除外にしているためにそれができない。本当は国が倒れる話ですから隠そうとするのですね。

 こういう話が分からない人がいう安全とかどうこうの話を信用してはいけません。公害摘発最前線には少し前の時代ですがそういう悲しい歴史が書かれているのです。市民が企業や国家にいいようにやられていくのを食い止めようとした人の話です。
 もうちょっと早く読んでおきたかった。このレビューが素晴らしいんです。

本書が発行された翌年、東京都公害局長であった田尻氏は東大駒場で後期半年間「環境行政論」という授業を行った。授業は毎回満員の盛況で、息詰まる公害摘発の現場が語られ、学生たちは田尻氏の雄弁に惹き込まれた。
「証拠をそろえてどんなに企業を追い詰めても、たとえ企業に不利な判決が出たとしても、いつの間にか官報の隅に載せられた修正によって巧妙に抜け道が作られ、誰も気づかないうちに企業は救済されてしまう」と彼は悔しそうに語った。
 東大、大企業、行政という悪の枢軸ががっちりと固めた利権構造を打破すべく、田尻氏は多忙を極めながらも最初に東大で教鞭を取る決意をしたのだろう。
 「その後さまざまな大学で講義をしたが、最初の東大が一番反応が良かった」と田尻氏は述懐している。
しかしながら田尻氏の孤軍奮闘した時代から、行政の本質は今も変わっていない。その受講生たちがまさに今行政や大企業で、利権を守るために背徳の限りを尽くしながら、国民の生命、身体の安全を脅かしているのではないか、という疑念を拭い切れない。
 蛇足だが、田尻氏の魂は、反原発の京大原子炉実験所助教小出裕章氏に承継されている。小出氏自身が田尻氏の名前をメンターとして挙げている。
Amazon.co.jp: 公害摘発最前線 (1980年) (岩波新書)の エルドラドさんのレビュー

「証拠をそろえてどんなに企業を追い詰めても、たとえ企業に不利な判決が出たとしても、いつの間にか官報の隅に載せられた修正によって巧妙に抜け道が作られ、誰も気づかないうちに企業は救済されてしまう」

 これを原子力は徹底してやっています。で、瓦礫の特措法なんかもそういう点からいうとうまくできています。大阪市はそれを知っているんですね。恐ろしいことです。瓦礫だけ見るとそれは被災地の問題に見える。違うんですね。段階的に規制緩和したら次に何が来てしまうかそれが怖いわけです。
 なぜなら廃炉はお金がかかります。超低レベルの放射性廃棄物を捨てられるようになれば原子力企業は万々歳です。今までそれで困っていたからです。

 田尻さんの文章を味わってみましょう。これらの文章は『公害摘発最前線』の中にも入っています。岩波の黄色版で古い本ですが図書館などにはあるかもしれません。

「だれが好きこのんで密漁なんかことやるもんか。食うていけんからじゃ。昔は伊勢湾ちゅうのは魚の宝庫やった。ところが、コンビナートがやってきて、汚水でわしらのだいじな魚を根こそぎ殺してしもうた。漁場をあらした工場こそ犯人や。あんたらのいう水産資源を守る法律を破って魚を殺したやつは、向こうやないか。それを取り締まらんで、わしらだけつかまえるのは、あんたら企業の手先か」
私はこの漁民のうったえに、大きなショックを受けて、あらためて水産資源保護法をみなおしてみたのです。そこにははっきりと「魚に有害なものを水面に捨ててはならない」と定めており、違反した者は懲役六か月と書いてあります。調べてみると、この類似の条項が明治五年から存在するのです。ところがわが国では、この法律に違反する主犯格の全国の有害工場排水のタレ流しに、この条項が一度も適用されたことがなかったのです。この法律は完全に死んでいた。そして私たちは被害者である漁民をとらえ、次々に罰金を徴し、結果的にはわずかにのこっていた彼らの生活すらうばっていたのです。
http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/nonfc/pdf/TaziriMuneaki.pdf

本当の犯人は誰ですか。法律や決まりを生かせていないのは誰ですか。

「天下の三菱ですよ。あなたがたは何かかんちがいしているんじゃないですか。いままで行政というものはわれわれといっしょに応接室でコーヒーを飲みながら仲よく会社の将来を心配してくれたものだ。それが行政というものだ。しかるにわれわれを犯罪者あつかいするとは何事ですか」といって怒るのです。話がまったくかみあわないのです。そしていっしょに排水口に行くと今度はしんみりした顔をして
あなたがたは海の人だから化学を知らないのでしょう。私は化学の専門家だから教えてあげるけど、うちが流しているのは酸です。しかしそれを捨てているこの海はアルカリです。酸とアルカリがであうと、中和するんですよ。そんなことを知らないでこんなことをやっていると、大恥をかきますよ。参考書を貸してあげるから早く読んで、気がついたらおやめなさい。いまやめたら私はだれにもいわない。今日のことはなかったことにしてあげますよ」といって、むしろ私たちのことを心配してくれているのです。そして次に重要なことをいったのです。
あなたがたはどうしてそんなにムキになっているのですか。うちの流している排水は一日五百トンだけど、伊勢湾はあんなに広いじゃないですか。私にはあなたがたのムキになっている気持ちがわかりませんよ
いろいろ話してみると彼は一人の人間としては人柄も善良なインテリなのです。しかし彼の目にうつるこの伊勢湾の海は、広々としたごみ捨て場にすぎない。
 一方、私たちがみるこの四日市の海は、年間七万隻ものタンカーが入ってくる海です。そ のタンカーはいずれも船底からつきだしているパイプから海水を一秒の休みもなくくみあげてエンジンを冷却している。だからこのパイプから、捨てられた酸が吸入されると、エンジンの冷却水系統の部品がとけて故障してしまうのです。とくに巨大タンカーのエンジンが入港中に故障して、巨大な力で岸壁や桟橋に衝突する、そして外板が破損し積み荷の原油が大量に港内に流れ、そのガスがたちこめ、大爆発が起きる、そうなったら四日市港は大火災になります。昭和四十年の室蘭港のタンカー、ヘイムバード号の爆発もその一つです。
そういうとき、私は、そのガスのたちこめる最前線で指揮をとらなければならない。爆発したら粉々です。そう考えると、四日市港の安全を守るためには、港に酸を捨てるということはきわめて危険なことなのです。そして港は実に貴重な水面なのです。
このように、企業と私たちの間には、同じ海をみているのに決定的な違いがあります。その意識のゆがみを変えなければ、決して公害問題の解決にはならないことを痛感したのです
http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/nonfc/pdf/TaziriMuneaki.pdf

 橋下市長が同じことを言ったって何の不思議もないでしょう。こういうものを私たちは相手にしているのですよ。

 「同じ海をみているのに決定的な違いがあります。その意識のゆがみを変えなければ、決して公害問題の解決にはならないことを痛感したのです」