細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

大阪市のエアサンプラー実証実験についての問題点と畑明郎氏からのコメント

10月11日に大阪市は環境科学実験所において、排ガス測定器の実証実験を行いました。
本当は国がやらなければならないものだったのですが
大阪市民の多数の陳情と維新を除く大阪市会議員が「安全性を確保・検証する」という付帯決議を議会で可決しこの取り組みが可能になりました。

しかしこれをネタにして橋下市長は試験焼却をする野心があるようです。
ホントにせっかちな人ですね。この焦りは自分がやりたくてごり押ししてきたが
色んな人に反対されてうまくいかないからです。
しかしなぜ反対されているかというところを反対したり懸念したりする人と
話して着地点を見出すということがありません。
民主主義は選挙だけで決定されるとお思いのようです。


その実験について、日本環境学会顧問・元大阪市立大学大学院教授で環境政策がご専門の畑明郎先生(畑明郎とは - Weblio辞書)に大阪市の資料を読んでいただきメールでコメントをいただきました。ブログで公開してよいとの許可をいただきましたので掲載します。

大阪市の資料はこちらのページにPDFがダウンロードできます。
大阪市市民の方へ 東日本大震災により生じた廃棄物の広域処理に関わり放射性物質の測定方法に関する実験を行いました(平成24年10月11日)

1.「焼却施設の排ガス中セシウムは、ほとんどが塩化セシウムで存在していると言われている」とするが、その根拠となるデータや論文が示されていない。

2. 表1のデータを見ると、揮散したセシウム量より円筒ろ紙捕集セシウム量は、5〜10%減 

 少しており、ガス状セシウムが揮散した可能性がある。

シンプルなコメントですが、とても本質的な問いなんです。

2についてはどこへいったのかきちんと調べてさらに検証を行う必要があると思います。
それについては今日環境局に電話しました。

そもそも一割くらい消えているのに誤差の範囲というのはちょっと難しいのではないでしょうか。



なぜかというとここでガスをしっかりつかまえて捕捉率が高くないと
実際の焼却炉に置き換えたらもっと計測できないということになってしまいます。

あの実験は電気炉で焼いた塩化セシウムが直接100%ガスサンプラーを通過することになっているからです。これは焼却炉の排ガス測定と全く異なる条件です。普通煙突や焼却炉の排ガス出口はもっと大量の煙が流れ出ていまして、その名の通り排ガスを一部「サンプリング」するわけです。
ですからどう考えてもこのまま試験焼却するのはやばいわけです。
大量の組成の違うゴミを大量の熱量で焼くわけですからエネルギーの規模・状態も起きている現象も違うというべきです。ホントは実機に近い模型を作り、たくさんの補正を加え、実験を行うべきです。まあ実験以前の問題として橋下市長の説明では、市民の理解が得られているには程遠いと思うのですが。

科学的な実験というなら大阪市は検証を重ね様々な条件に付いて吟味しなければなりません。すでに河野先生や熊本先生と言った方がコメントを出されています。


1がさらに問題です。
実は新潟県の泉田知事も同じ疑問を環境省にぶつけその答えが返ってきていないからです。

2 放射能対策についての技術的問題について


(7)環境省の資料では、「排ガスは冷やされて、気体状あるいは液状のセシウムは、主に塩化セシウムとして固体状になり、ばいじんに凝集したり吸着する。」とあり、全てのセシウムが塩化物となることを想定していると考えられる。

 市町村の廃棄物処理施設で焼却した場合、セシウムは何%が塩化セシウムになるのか、また、ガス化するセシウムはないのか、科学的検証を示されたい。
新潟県:環境大臣に対し、東日本大震災により生じた災害廃棄物の放射能対策及び広域処理の必要性に関する再質問を行います。

それに対する環境省の答えはこれです。

回答

セシウム原子番号55のアルカリ金属であり、沸点は約650℃、融点は約30℃です。排ガス中の放射性セシウムは、バグフィルター手前で約200℃以下にまで冷却されると、主に塩化セシウム(沸点は約1300℃、融点は約650℃)の形態でばいじんに吸着していると考えられます。

実際、京都大学の高岡教授の安定セシウム放射性セシウムと物理化学的な挙動は同様と考えて良いです。)に関する調査結果では、バグフィルター前で固体状が99.9%、ガス態が0.1%であったことが報告されています。

また、わずかに気化したセシウムが存在したとしても、排ガスの測定において、ドレン部で捕集されることになりますが、実際の排ガス測定においても、通常ドレン部では不検出であり、ガス態のセシウムは安全確保上必要な検出レベルでは存在していないことが確認されています。」

がれき追加質問(放射能分)

http://www.pref.niigata.lg.jp/HTML_Article/470/941/0615kaitoubessi.pdf


これでは環境省はまるで答えていないことになりますね。何なんでしょうか一体。

粒子状で存在しても
その粒子がどういう大きさでどういう物質で、どういう形態で
ということがわからないと取れる取れないみたいな話ができないと
私は思います。
これが科学的に「正しく怖がる」ということだと私は思います。

実は焼却炉というのはバグフィルターの後段には活性炭アンモニアなどを吹き込んでNOXやSOXを吸着させたり水洗いして変化させて害を下げる設備もあります。

バグフィルターは粒子つまりほこり取りです。
フィルターの多くは繊維やコーティング剤を工夫して
特定の物質とくにダイオキシンを取りやすくしています。

しかし逆に言えば物質ごと、その物質の性質事に色々な工夫をしなければならないということです。セシウムに注意した焼却システムはまだ開発も試作もされていません。私が被災地での焼却も危惧するのはこのためです。

またバグの使用状況や目の詰まり具合で集塵性能は変わります。
立ち上げ時と終わるときは集塵性能が落ちます。
細かいツッコミのようですが焼却のリスクを考えるとき無視できないことです。

最近はコンピューター制御で炉の温度管理をしていますが
排ガスの温度などによっても粒子やガスの性状は違うと思います。

でそういう場所でこれまで焼却成績がない放射能を焼くということが
どういうことかということまで考えて
大方の研究者の合意が得られていれば環境省の災害廃棄物安全性評価検討会議の議事録なんか未だに非公開なんてことはあり得ずすべて公開されているはずですしベテランの廃棄物ジャーナリストから専門家までこぞってフィルター性能に懸念を表明するなんてことはないはずです。

そもそも今回の大阪市の実験は排ガス測定器でどれくらいとれるかを実験しただけであり
それ自体の評価もまだです。上に書いたことは素人考えで
間違いもあるでしょう。

ただし、今回の実験はごみの成分も多彩で、生成される物質の種類も数千に及び、煙突からの排気量が時間当たり数万立方メートルに及ぶだろうごみ焼却炉に「直ちに応用できる」というほうが無理だと私は思います。


すでにいろいろな方がこの実験に懸念を出しています。

山本節子さん

1 塩化セシウム試薬について記してない(市販品ならメーカー、塩素とセシウムの配合割合、使用した量等)→→ここをはっきりさせず、「全部取れた・・・」なんて言うな。
2 実験手順が書いてない→→例えば、セシウムを加熱する「ガス化装置」で、いきなり800℃になったかのような表現。目的温度にいたるまでの時間と沸点の関係を書いておかないと。
3 実験番号1-4で異なった濃度を設定した理由は何か?
4 揮散セシウムとは何か?
5 それとろ紙で捕集したセシウムとの差は何なのか?

大阪市の排ガス実験でセシウムの一部が行方不明 | WONDERFUL WORLD

この件については「子どもたちを放射能から守る会八尾」の方が詳しく精力的に報告されています。

そして、今日の実験の大阪市の録画を確認して、また怒りが湧きました。
実験の後の質疑の時間に、金沢議員や北山議員などから実験に批判する質問が行われたのですが、大阪市の録画には、橋下市長の質問の後の北山議員の質問の直前で録画が終わっています。
ですから、批判的な質問は一切録画にはありません。
私は先にIWJで確認していたので、大阪市が録画を終了している箇所をIWJの録画でも再確認しましたが、ほんとうにちょうど北山議員の質問の直前で終わっていることが確認でしました。
10/11 インチキなラボ実験が行われる!(大阪市立環境科学研究所) - 子どもたちを放射能から守る・八尾の会

その中継を見ましたが、予想以上にひどい内容でした。

京都大学大学院工学研究科の河野益近先生は、「とても驚いたことは、この実験が炉内での状況を再現していると信じる人がいることです。」とまでコメントされています。
10/11 インチキなラボ実験が行われる!(大阪市立環境科学研究所) - 子どもたちを放射能から守る・八尾の会

大阪市のラボ実験「実験放射性物質の測定方法に関する確認について」のビデオ(USTREAM)を見て気付いたこと

今回の実験については、塩化セシウムの融点が645℃なので、200℃まで冷却されれば固体化するので、ほとんど円筒ろ紙で捕捉されると予想していましたので、予想通りの結果といえます。

しかし、驚いたことがあります。それは環状電気炉内の試験容器(800℃)内に器に入れた塩化セシウム(試薬)を入れた後、試験容器内で器と塩化セシウム(試薬)の温度が800℃に達する時間を取らずに直ちに吸引を始めたことです。しかも、試験装置内に吸引される空気は800℃に管理された空気ではなく、実験室内の空気(25℃程度と思われる)です。
試験容器、器、塩化セシウムは物理的に接しているため、熱が伝わりやすいので、塩化セシウムの温度は、試験容器の温度800℃まで達しないとしても融点645℃を越える温度まで達して、塩化セシウムは気化しているものがあるのでしょうが、温度管理上問題があります。

また、気化した塩化セシウムは器から離れるので、吸引された実験室内の空気(15L/分=250mL/秒の流量です)によって冷却され、すぐに固体化すると考えられます。
ろ紙の部分に温度を200℃に保つためにヒータが取り付けられていますが、25℃程度の実験室内の空気が絶えず流入しているのですから、気化した塩化セシウムを200℃に保つ効果はありません。実験と呼ぶには、あまりにも温度管理ができていません。

今後、実際の焼却炉内では分解してセシウム単体を放出するようなセシウム化合物(例:炭酸セシウム)で同様な実験を行ったとしても、同じ試験装置であれば、セシウムは固体化して円筒ろ紙で捕捉される、あるいは円筒ろ紙を抜けるガス状、霧状のものがあっても固体化する温度近くまで冷却されているので、吸収びんで捕捉されるという結果になってしまうと考えられます。
http://savechildyao.blog.fc2.com/blog-entry-153.html


さらにこちらの記事2012年10月 - 子どもたちを放射能から守る・八尾の会に詳しい報告書があります。

問題点説明文改定2 樗木.pdf - Google ドライブ


結論:このように実験ですらまだ検証も進んでいません。まず大阪市会が検証の仕組みと予算を組むこと。そしてそれを市行政に確実に実行させること。それが付帯決議の具現化といえるでしょう。さらにそれをチェックする第三者(廃棄物村や原子力村ではない)がこの事業の様々な問題点について検証すること。市長がいくら頑張っても意地になっても市民が怒っているのは市長がどうこう以前にこのがれき広域処理自体が政府が強引に進める異常な政策だからではないでしょうか。