細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

不測の事態における検証と支援のシステム覚書―震災の死因 医師約3割が疑問というニュースから

震災の死因 医師約3割が疑問
3月28日 18時35分

東日本大震災の犠牲者の9割以上が津波に溺れて亡くなったとされていることについて、実際に遺体を調べた医師の3人に1人は、「ほかの死因が含まれている」などとして、疑問を感じていることが、厚生労働省の研究班の調査で分かりました。

法医学の専門家で作る厚生労働省の研究班は、岩手、宮城、福島の3県で東日本大震災被災した人の遺体を調べた医師を対象に、ことし1月にアンケート形式の調査を行い、97人から回答を得ました。
警察庁の発表で、犠牲者の9割以上が津波に溺れ、「溺水(できすい)」で亡くなったとされていることについて尋ねたところ、「妥当」と回答した医師は63%にとどまりました。
「妥当と思わない」の10%に「分からない」の22%を加えると、全体の3人に1人が震災の犠牲者の死因について疑問を感じていることが分かったとしています。
理由については、「津波の圧力による窒息や低体温もあった」、「火災などの影響も考慮すべき」といった意見が多く、中には「誤った結論は誤った対策を導くので、専門の学会による独自の分析も必要だった」という指摘もあったということです。
アンケートを分析した名古屋市立大学の青木康博教授は「被害が大きすぎて、それぞれの犠牲者の死因を詳しく特定するには限界があったが、多くの医師が問題意識を持っていることが分かった。大規模な災害でも死因を正確に究明できる制度や態勢が必要だ」と話しています。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120328/k10014035491000.html

最近災害廃棄物に絡んで、震災や放射能問題、さらには人の健康について考え活動することが多くなりブログはご無沙汰していました。

次々に訪れる不測の事態や震災後の社会変動にどう応接するか、考えています。

今日気になったのはこのニュースです。日本での死因解明の制度、遺体検案などの仕組みが相当弱いことはよく知られており、海堂尊さんなどが「死因不明社会」で問題にしていましたのを仄聞しています。
私は「人がなぜ死んだか」ということを調べるということは、津波災害のみならず、例えば放射線被ばくの問題では大変重要な問題になってくると思っています。
そしてまた上記のように、専門の医師から見ても平時ですら恐らくご苦労されている検死について、緊急時にはさらに相当問題が浮かび上がっていることがわかります。

かつて人間はなぜ死んだのかということを不条理的なもの、あるいは神的な何かにゆだねてそれを鎮めるということしかできなかったように思います。
なぜ死んだのかというのは、生きているものがどのように死という状態へと移行していくか考えることでもあります。
近代の医学の発展によって、分子レベルでの人間生命の変化を相当つぶさに観察しいじることができるようにもなってきました。

しかしそれでも災害や事故で社会システムが寸断される中で様々な医師が動員されていたとして、普段とは違う状況の中で検死検案を行うということは、医療スタッフの質以前に、大変な変化に曝されており緊急を伴うことであり困難であったろうと推測します。
原発事故の緊急避難で起きた患者搬送の困難も聞いています。

警察や消防といった人々との連携、自治体やご家族との連絡も相当大変だったのではないかと思います。
ツナミで倒壊した家屋や工場施設から有毒物質が流れ、肺を傷めた方も大変多いと聞きます。津波肺というのだそうです。細菌類などがヘドロに入っていて感染症を引き起こしたり、災害跡地を歩いていて、くぎを踏み抜き、破傷風にかかったケースも聞きます。

薬の配布、医療用具の不足も最初にはずいぶんあり、原発事故の影響で医療スタッフが激減した地域もあります。

人が死ぬということは、平時であれ非常時であれ、相当な混乱と変化の中で起きていくので、その死ぬということを見る、その死んだものがなぜ死んだのかを知るということは、弔いの意味でも今後のこの社会で起きうる出来事を考察するうえでも大変重要です。


                **

話は変わります。
私は放射線被ばくの問題を医師でもなんでもない単なる非専門家から考えているのです
が、恐らく放射性微粒子が体内に入って、その組織や細胞を傷めていく中で、単にすぐ死ぬとか、あるいは全然大丈夫という具合にとらえては誤るのではないかと思っています。

二つの理由を私は考えています。高線量での被曝は即死するリスクは高いです。これは原爆などで明らかです。強力なγ線中性子線、それから爆弾そのものの熱風、衝撃波。距離によりますがこういうものを一挙に浴びて体内組織や細胞が不可逆的な損失を被った場合、即死や数日以内の死を免れるものは少なくないです。
また第5福竜丸の船員の平均的な被ばく量は3〜4シーベルトといわれていて、死の灰が皮膚を焼く熱傷や体内に呼吸や食事を通じて取り込む被ばくも深刻でした。この時の国会の厚生委員会での被ばく医療の都築正男の証言を読みました。これも大きい被曝だろうと思います。この時は血液を新しくする治療などを行ったのですがその時の製剤に肝炎ウィルスが含まれていて肝炎を後に発症された方もおり問題になっています。
ちなみに現在も大石又七氏という元船員さんはご存命で、被ばくについて訴える活動をされています。

低線量の内部被ばくを大量の人間が受けるケースは核実験、原子力発電所の近隣住民(環境基準内で排気塔や排水から放射性核種を排出しているため)、核の事故などがあります。
TMIやチェルノブイリでも評価に大変もめています。
素人の私が考えるもめる理由
1、核分裂生成による人工放射性核種が自然環境中に散在するようになったのは20世紀以降。
2、環境中に不均質に被曝、曝露する物質が広がっておりいつどのようにどれだけ被ばくしたのか特定が困難。そのため土壌汚染から推定するか、天気やその時の居住や行動を記録して被ばく状況を最大限丁寧に起こすことが難しい。
3、個体の健康状態、個体の遺伝的な脆弱性の差異、年齢や防御状況によって恐ろしく偏差が生まれてしまう。
2,3はICRPが警告しているように平均的な被ばくという考え方を現存被ばく状況に当てはめて被ばく防護のプランニングをしてはならないということです。つまりそれぞれの置かれた状況や個体の年齢や健康状態に応じた防護が必要で、心配しすぎかそうでないかにわかに判断できないのです。

人工放射性物質は、アルカリ金属や様々な元素の同位体で、そのだす放射線の種類、改変のパターン、体内の蓄積状況、組織や細胞の被ばく状況も様々でこれは一刻も早くしっかり検討し、現在のように現存の被ばく状況において、低線量がいかにバックグラウンドの喫煙や化学物質や様々な生活上の事情に隠れて見えにくいとはいえ一定の警戒を怠らないということは私は無理のないことであると思います。
政府や公的機関メディアが親切に誰でもわかるようにアナウンスするという状況でない上に専門家の見解が対立的な局面においては、極力曝露を避けるといった大まかな指針で個別にこのような食品は気を付けるとか、土壌汚染のある地点ではマスクなどをつけるといった防護が必要でしょう。
また人によってちがうでしょうが高いと思われる線量の場所には長く滞留しないということもあります。

その中で様々な高い被ばくを受けざるを得ない作業員や住民の方がいます。
前者に関しても大変難しい問題があると同時に
後者については少なくともパブリックな、広く共有されたリスクの様々な情報が提示され、その人が評価出来るようにしておく必要がありましょう。
そしてまた被ばくを受けていると思わしき人々と、相対的に被ばく量が少ない人々に垣根が生まれないようにお互いの情報がより交換できることが必要なのではないでしょうか。
それが助け合いを生みひいては移住に伴う抵抗を下げていくことも考えられるかもしれない。
こういう局面で政府の政策が不信を読んでいることは言うまでもありません。

ただ私は政府を批判しながらも建設的な提案が思いついたら資料や分析を加えて
行政や様々な機関に送付するようにしています。
素人であるから迷惑かもしれないけれど一応ソーシャルワーカーの端くれとしては、被ばく防護の公衆衛生というか人道的な被ばく防護政策を望みたいからです。


                **


さて最初の記事から離れ、今気になっている放射線リスクについて少し書いてみました。

個々人が不確定な状況で疾患や死亡リスクにさらされているということがある。
災害や事故ではそういう状況が起きます。そういう時に死亡した方々の弔いとともに彼らがなぜ死んだのかどのように生きていたのかを検証する仕組みは大変大事です。

いわば個別のケースを検証する緊急的なシステムです。

そして普段のシステムが通用しない中でこれまでに十分なリスク評価がない毒物に曝されている人々が疾患や死亡のリスクを持っているかもしれないという中で
しっかり一人一人の個別に応じたマネジメントとその一人一人をつなぐ連帯とか大きな支援の輪、情報共有のプラットフォームが必要になります。

それぞれの状況で被害にあった人、亡くなった人、不測の事態の中にいる人のことを考え救うシステム、どうやら既存の狭い意味での国家という視点だけでなく、新たなパブリックな視点からの制度構築が求められるように思います。しかしそれがなんなのか私はまだわかりません。
津波災害地にも、汚染地帯にも様々なケースで、放射線防護、移住、防災、生活支援のネットワークが要ります。これらはしっかりと連携する必要があります。