細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

ここひと月で読んだ本3冊はいずれもルポだった

その三冊はいずれもルポだった。

精神医療に葬られた人びと (光文社新書)

精神医療に葬られた人びと (光文社新書)

精神科入院病棟で出会った患者さんとの会話、交流を軸に、民間の精神科入院病棟がどんどん作られて隔離収容政策が取られつつ今日に至った背景(近現代史)を歴史学者に取材したり70年代以降開放病棟化に尽力した三枚橋病院の石川信義医師の話を聞いたりしたものがまとめられている。医学史的に詳細にみるといろいろ不備はあるのかもしれないし、石川医師の話も少し懐かしい感じがするが、著者が深く付き合った患者との交流を素朴に丁寧に描いているように思えるし閉鎖病棟のある精神科病院もまだまだあるので、重い日本の現実として読まれる必要があろう。
なお私は最近イタリアが80年代精神病患者の隔離政策をやめて協同組合での賃金労働を実現しようと、病者とある男が協力して奮闘した映画を見た。「人生ここにあり」*1 笑いあり涙ありとても見やすい映画だった。イタリアにはバザーリアという急進的な医師がいて、精神病棟の解放全廃を義務付けた法律も「バザーリア法*2」と呼ぶ。これも単純に開放が進んだというのではなく*3、今はベルルスコーニは保守派だし、揺り戻しもあるし、地域ケアの体制を築くのにも大変な努力があるようだ。また、日本と違うのは公立病院が基本らしいこと、つまりたくさんの病床を抱える日本の精神病院は民間も多く、これは政策的に後押しされたようなのだが、大変問題を複雑にしている。つまりベット数を確保するために患者を手放さないという問題があるのだ。ここは経済的にもインセンティブをつけないと人道的な精神医療政策は進まないかもしれないと思ったりする。

良く思うのだが日本も国策としてある時期まで隔離を容認してきたことは間違いなく、それゆえ、例えば北欧のように福祉を普遍化することを国是としていくようにさせなければならないがそうならない。北欧の成功は、北欧の福祉政策が経済政策と一体になって国際競争力を保持したことが見落とされてはならない。つまり人をちゃんと生かすという保証を公的なセクターに約束させないといけないわけである。社会保障単独の問題ではないし、ただ経済を生かすためだけに導入されているわけでもない。そういうことを理解しなければいけない気がしている。

さて、もう一冊は

婚活したらすごかった (新潮新書)

婚活したらすごかった (新潮新書)

という恐るべきタイトルの本であるが、この著者は自らを実験体として婚活ビジネスの展開するパーティーや婚活サイトに参加してそれを赤裸々に報告している。今の日本の資本主義の実態のある面ともいえる。読みやすいしわかりやすいのだが、こういう下世話である種差別的なスキームでできた世界を嫌いな人は苛立ちなしに読めないかもしれない。しかし怖い本である。
最後は
福島 原発と人びと (岩波新書)

福島 原発と人びと (岩波新書)

とにかくこの短期間で現地で起きたことを取材して、さらにそれを著者の活動したチェルノブイリと結び付けて核災害の現状に迫っている。チェルノブイリについては先日読んだ
チェルノブイリの祈り――未来の物語 (岩波現代文庫)

チェルノブイリの祈り――未来の物語 (岩波現代文庫)

と併読されるとよいだろう。
この二つを読めば旧ソ連で起きた社会的体制的現実と、資本主義国日本の現状、情報隠匿や官僚の保身などは普遍的な人災に思えてくる。早くそこからひとびとを私たちを救い出さないといけない。