世界がどんなにおいしくなるか
昨日は、人に誘われてお食事会に行った。中華は美味しくて、昨日金曜日に歯を治しに行ってよかったなあと思った。
ワインをそそぐ店員さんは、こぼして白いクロスにシミを作っていた。和やかな会で、楽しかった。うってかわって今日は寒風が吹きすさんでいる。
石垣りんに「冠」という詩がある。
冠
奥歯を一本抜いた
医者は抜いた歯の両隣
つごう三本 金冠をかぶせた
するとそのあたり
物の味わいばつたり絶え
青菜をたべても枯葉になつた
ああ骨は生きていなければならない
けだものの骨
鳥の骨
魚の骨
みんな地球に生えた白い歯
それら歯並びのすこやかな日
たがいに美しくふれ合う日
金冠も王冠もいらなくて
世界がどんなにおいしくなるか
僕はむしろ治療する前の痛さがこたえていたのだが、実はそれは歯の中の神経や血、組織の苦しみだったのだ。神経を抜くことにより「痛み」は消える。が「痛み」のないのも痛みだと石垣はいっているようだ。そこでは世界との存在や生命としての関係が消えているのだ。
確かにそうだなと思う。でも痛いと美味しくない。だから石垣さんは「痛みに耐えよ」といっているわけではないだろう。
歯を傷つけてしまったことへの「哀悼」や悔悟のような気持ちだろう。
病む、老いる、それを防ぐために様々な処置や防御策を図るということにも、表裏があるということなのだった。この表裏の側面を感じることが死に向かって、時間の中で生きるということか。
昨日の中華を食べてとても美味しかったのもしかし事実なんだよな。まあ歯医者に行ってよかったんだけどね。浸みたらうまくないので。
- 作者: 石垣りん,落合恵子,粕谷栄市
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