細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

腹切り考

むかしなぜ
サムライが腹を切ったのか
そういう疑問が浮かんだ


浮かんだもののあまりそこからつながる気配が無かった
秋の夜に
男の子がなにやらいっている声がする
すこしあけた窓のすき間から聞えたきり
あとは
なんだろう


もう一度トライする
腹にはなにか本当のものがあって
生きている限りそれを話すことはできない
隠しているのではなくて
生きていると
昔は内臓を見せることができなかった


嘘はないよっといって口を開けても
誰も信じないとサムライは思い
次に手のひらを開いても
空を切った


それでもきみは信じようとしない


服を脱いだりしたが
この秋の夜では寒かった


なにも身につけない
まさに潔白であり
申し述べることは述べ
全ての責任を認めても
サムライは

なぜか信じられていないような気がした
誰かはわからないけど
なにかに
信じられていないような気がした


空を見ると鼻に
乾いた空気が流れ込み
目をしばたかせ

なにに信じられておらないのか
しばらく考えていたのだ
その
サムライは


責任を取るから腹を切ったんじゃなく
もうさらけ出すものひとつなく
全てを申し開いた果てにも
いえないこと
いいわけしてもどうしようもないこと
があるときにサムライは
腹を切ったんではないかと僕は思った


そう思う僕は腹切りを美しい習慣とは思えないのだが


どうしても自分がもう何も言えない
としても
残る思いがあって
その思いを誰にぶつけても
どの壁にぶつけても
何のこたえもない場所にある時いたように思う


実に多くの人がいたように思う


うるわしいほどの優しさに囲まれるときがあるので
そのときに感じたのは
眠るときの口の中の甘い感じだった
そのとき
死にたくても
死を願っても
腹は自分で切っても
切らなくても
そんなことしてもしようがないんだよ
という
そういう
目の前がゆれるような



ただうずくまる
激しく痛む僕の腹があり
それを医師がメスで裂いて膿みをすべて出しても
気がついたら
生きている
そういう12歳の夏の夜があったのだ


幻のように
腹を
頭を破って
実に
気味の悪く
鮮やかな
人が生きている場所に
僕は何度も出戻ってくるのだ