細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

典型的な排除の構図

アジア太平洋地域アディクション研究所より

http://www.apari.jp/hoshaku/naze.htm
以下引用。

薬物問題に対する日本の取り組みは、欧米に比べ20年以上遅れているといわれ、さらには民間の薬物問題に関する社会資源の絶対的な不足はアジアでも最低レベルにあります。日本は犯罪として取り締まることに力点を起きすぎた結果、薬物依存からの回復・社会復帰というアフターケアについてはまったくといっていいほど取り組まれてきませんでした。
一方、欧米では、薬物使用の重罰化が問題の抑止にはならず、むしろ法的抑制の強化がブラックマーケットを肥大化させるという現実的な反省から、「処罰よりも治療」を優先する流れが主流になっています。

もちろん平成一ケタ年代から見ると、違法薬物の案件は減っているようだ。
ただ、海外からの流入など、その経路がイタチゴッコ的に変化している。日本のような抑圧的な辛抱我慢の社会はかっこうのマーケットかもしれない。しかし日本には酒を自販機で売る*1などして酒により違法薬物へのアクセスがある程度ブロックされているのかもしれない。しかしこれは信田さよ子氏も述べるように全世界的に見ても考えにくい事態のようだ。
酒が気軽に買えるということもリスキーである。飲酒運転や依存症への障壁を低くしてしまっているとも言える。朝からワンカップを自販機で買う人を時々見かける。

さて。

今回酒井法子氏が今どのような状況にあるかはわからない。彼女がどのような状態にあっても見つかった場合、彼女やその家族に様々な厄介なことが起こることはまちがいない。

そんなことを心配していたら、今日河村官房長官の発言のニュース聞いた。*2
「覚せい剤根絶必要」と官房長官 酒井法子容疑者に逮捕状で - 47NEWS(よんななニュース)

河村建夫官房長官は8日午前、山口県宇部市での記者会見で、覚せい剤取締法違反容疑で女優の酒井法子容疑者に逮捕状が出た事件に関連し「芸能界での薬物まん延が指摘されており、徹底的に根を断つことが必要だ。若い世代に広がらないよう真剣に取り組まなければならない」と述べ、麻薬・覚せい剤撲滅に全力を挙げる姿勢を強調した。
2009/08/08 13:34 【共同通信

「むしろ法的抑制の強化がブラックマーケットを肥大化させるという現実的な反省」は少なくとも彼にはないらしく、「「処罰よりも治療」を優先する」わけでもないらしいこともわかった。

おそらく見える、あるいは見えてしまった表面を悪として刈り取り、その後のその人たちを放置していくことは目に見えるようだ。捕まえれば彼らが失業して路頭に迷おうが死のうがそんなものは関係ないのだろう。典型的な排除の構図だ。福祉や優しさではなく、単純に社会の安全という観点から見ても「徹底的に根を断つこと」という言葉は違法薬物問題に対しては素人目にも効果的ではないことが解る。

薬物事犯の初犯者は、自己使用事犯の場合、ほとんどの場合、執行猶予の付いた判決になります。
つまり、覚せい剤事犯者の再犯率は50%前後と極めて高いにもかかわらず、再犯防止に向けた取り組みが何もなされないまま、多くの薬物事犯者は元の薬物が身近にある生活に戻るわけです。
かといって執行猶予の判決後に薬物問題の専門機関に行くことを義務づけることはできません。そのため、執行猶予期間中に再犯を犯して実刑判決を受けたり、依存症に陥って、精神病院の入退院を繰り返すといった悲劇も数多く見られています。また、中には保釈中にさらに薬を使ってしまう人もいます。(アジア太平洋アディクション研究所のページより)

グループホームで、パニックを起こすと軽犯罪を起こし何度も逮捕され、執行猶予がつかなくなる人がいた。厄介者だとラベルを貼られることで、その人はどんどん追い込まれていく。
追い込まれる人が少しでも安心して暮らせる社会にならないかしばしば思っている。で、自分自身も生活の不安は精神疾患のこともあり、たくさん不安になったりもするのでこういう日記を書いたりするのだった。

*1:信田さよ子『依存症』│mm(ミリメートル)

*2:追記・また芸能界、テレビ業界というものも様々な利権の集まりであるものの、相対的にその地位が低下しているから、官房長官も安心して「撲滅」といえるのだろう。ただ、腐敗はあるとはいえ、芸能人も人間である。先の見えない業界の中で生き残りを強いられ身を売り、苛酷な感情労働をしている点で、給料を除けば、得られるものよりしんどいことの方が多い。非人道的な職場であることはまちがいない。景気のいい時代はそれでもやりがいはあったのかもしれないが、今はどうだろう。僕は昔、大麻所持容疑の裁判を傍聴したことがある。傍聴したのは僕と4人の友人のみ。裁判自体は地味だが一般人が逮捕、拘留されてもかなりしんどい。しかも前科がつく。しかも薬物依存に舞い戻る可能性はきわめて高い。酒井法子氏が起訴されるかはわからないものの、既にとんでもない騒ぎである。社会的に抹殺される可能性はきわめて高い。もちろん覚せい剤は安全な薬物といえないから、やらないほうがおそらく絶対にやらないほうがいい。しかしやってしまう人間がいて、それをカモにする人間・組織がいる。その問題は禁酒法が失敗に終わったように、排除ではなく、それに陥る人間を減らすには、あるいは陥った人間が回復するためにはどうしたらいいかを考えるのが為政者の仕事であろう。日本はすでに夜警国家、もっといえば警察国家化しているという懸念すらある。杞憂だと良いのだが