細々と彫りつける

Concerning poetry,radioactivity,disability,and so on(詩、放射能汚染、障害などについて)

昨日のエントリにかけていた視点

昨日のエントリ片倉信夫再見―あのころの私と - 細々と彫りつけるを読むなら、苦労や、困難ばかりを強調しているようで少し反省している。実は自閉症や広く発達障害について、そこに「可能性」を発見する人たちもいる。その意見も紹介しておかねば、公平ではないと思ったのだ。

しかし今日は簡単な紹介になるが、書名をあげておく。あまり根詰めるとしんどいからだ。

自閉症―これまでの見解に異議あり! (ちくま新書)

自閉症―これまでの見解に異議あり! (ちくま新書)

今まで自閉症と呼んできた人たちの行動を、あまりにも「症状」として見すぎてきたがために、そういう行動がもっている普通の意味を考えることができなかったからである。「症状」とされた行動は、あまりにも特別視され、特別な用語で語られすぎてきたのである。

昨日少しいったこと、自分たちの「普通の」生活を見直すこと。われわれが現代社会に適応するその形を村瀬は見つめなおす契機として、「自閉症」の問題を考えている。
村瀬はこれを具体的な例や研究史批判として提示している。私にとってはこそばゆく、部分的に?もある。しかし当事者本や啓蒙書は山ほど出ていても、こういう当事者に寄り添いながらも、その周りのあり方や研究史も含めて批判的に検証する本を読んでいる人は意外に少ないように思われる。

ただこの本にも憂慮すべき点はある。自閉症発達障害者の被差別的な現状を心配するあまり、彼ら彼女らへの「判官ひいき」ともいえるような論旨が少し目立つのである。事実、発達障害者が十全に理解され、この社会に包摂されない現状は大きい。しかし、それにしても少し危うい論旨なのではないかと思う点もある。全てを発達障害の「遅いスピード」のほうへ社会を沿わせるというのは、魅力的な社会構想である。しかしそれは心情として充分に理解できるにしてもなおユートピア的な面が大きいし、一概に好ましいことばかりではないのではないかと思う。
小澤勲さんの本を解読した部分や村瀬さんなりに自閉症者の内的世界へ届かせる理解は注目すべきものが多々ある。ただ、少し自閉症者への応援の仕方に偏りがあることは否めない。それで本当に応援になっているかは読者により評価が分かれるだろう。片倉さんの本はそれに比較すれば「自閉症者」に冷たいようだが、実際少しでも生きる労苦を軽くする視点から見た場合、片倉さんのほうが自閉症者の立場をよく考え抜いているのではないかと思う。
しかし現状へのカウンターパートとしては充分ユニークな本である。


実はこういうふうに支援を必要とする人への視点をどう置くかは大変、家族や支援者、行政、社会でも割れているに違いない。だから私は、その前に支援者を目指す人には、ある程度は、「困難の大きさ」をいっておきたいと思った。それほどに一枚岩ではない。(村瀬もこの問題に最初に触れている。英国の自閉症研究者ローナ・ウィングは発達障害の子供の母親でもある。そのことについても村瀬は言及している)しかしそのような現状を可能性として、みることで「明日」の議論につなげたい意図もある。もちろん私が「燃え尽き」てしまったので、そのことで様々に苦労を感じたのは事実だ。しかしそれは例えば家族や介護職の「介護疲れ」という現象とひとつながりであり、それをどうしたら改善できるかずっと考えたいと思ってきた。ただ、自分は健康状態がおもわしくなかった時期がもう7年以上続き、考えたいと思えど、それを考えるちからがはっきりいってなかった。だから、この社会で障害者とつきあうことの限界と可能性を今は少しは考えられるかもしれないと思っている。自分にとってはこれは長い間の宿題だったのだ。

これから高齢社会は世界で一番進んだ状態に日本は突入する。高齢ドライバーの交通事故は増えているらしい。精神障害に苦しむ人や自殺者も後をたたない社会である。だから支援を必要とする人、なんらかの金銭的、生活的支援を求める人も増大している。
だからどのような支援や社会のあり方が必要か、もっと多くの人が考えざるを得ない状態になっている。ある意味で「むずかしさ」や「困難」「遅れ」「障害」を組み入れた、つまりは「生老病死」の現実に立ち返った話がいる。私の知る限りでは社会保障の分野では広井良典、社会科学の分野では、立岩真也がそのような議論を展開している。
しかし総体としてそのような事態に到底対応できる状況になっているか首を傾げざるを得ないことも多い。

ゆえに、楽観的な情報だけを流してももう仕方ないとも思っている。元気を出すには適切な現状認識が必要だ。しかし私の認識がかなりの偏りをもつことは認める。私は元来悲観的な性格なのであるから。

ただ、介護や福祉の仕事というかその営みに面白さといえばよいか「やりがい」のようなものがなければ志す人は誰もいないだろう。だからそこも話が出来たらと思う。志しはするが腰痛や、ノイローゼになるかもしれないと思いながら仕事をするのは恐い。これは教員も同じだと思っている。
だから志す前に知っておく必要のあることはある。自分がうまくいえるかはわからないが。

村瀬学のHPだけでも今のところ紹介すれば一助になるかと思う。
http://www2.dwc.doshisha.ac.jp/mmurase/